大江戸火龍改 


 2021.7.16      京極堂シリーズに近い主人公 【大江戸火龍改】

                     
大江戸火龍改 [ 夢枕獏 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
人間ではないモノとの対決物語。まず不思議なことが起こり、それが化け物の仕業ではないかと思わせる。そこから遊斎が化け物と対決する。どこか浮世離れした雰囲気のある遊斎。ちょうど、京極夏彦作品の京極堂シリーズに近いのかもしれない。

京極堂は事件が妖怪の仕業では?と思わせておいて、最後は人間の仕業と判明する。この世には何も不思議なことはない、というのが口癖だ。本作では、そのものずばり妖怪や化け物のようなモノが元凶となっている。特殊な術を使う遊斎。土の中で泳ぐ魚を釣り上げてみたり、長髪だが髪の毛がすべて白かったり。とにかく遊斎が普通ではない。平賀源内が登場したり、犬の化け物が登場したりと、作者の「陰陽師」を好きな人にはたまらないかもしれない。

■ストーリー
満開の桜の下で茶会を催していた一行から悲鳴が上がった。見れば大店のお内儀の髪が逆立って、身体ごと持ち上がっていき、すっかり桜の花に隠れてしまった。見上げる者たちの顔に点々と血が振りかかり、ぞぶ、ぞぶ、ごり、という音のあと、どさり、と毛氈の上に女の首が落ちてきた―。遊斎は、飴売りの土平、平賀源内らとともに、この怪奇な事件の謎を追う(長編「桜怪談」)。短篇「遊斎の語」「手鬼眼童」「首無し幽霊」も併録。

■感想
短編はまるで遊斎の紹介のような感じだ。遊斎の不思議な雰囲気と、齢をとっているのか若いのかわからない風貌。なぜか子供達には人気がある。土の中に泳ぐ魚を釣り上げたりして子供たちのヒーローとなる。仕事としては、人では裁けない化け物を裁く仕事だ。

そのため、人間の法律には縛られない行動ができ、大名などからも一目置かれる存在となっている。序盤での遊斎の雰囲気というのは、まさに京極堂だ。何もかも知っているようで、なかなか真相を明かさない。このもったいぶった感じが良い。

長編の「桜怪談」は強烈だ。ある男の妻が桜の木の上で殺されてしまう。そして、首が上から落ちてくる。妻だけでなく、次男までもが殺されてしまう。犬の化け物による殺人。それを調査するのは遊斎ではあるのだが、遊斎だけでなく飴売りの土兵や平賀源内、そして剣の達人までも仲間となる。

このあたりも、京極堂シリーズに近い。遊斎が調査する中で、長男の毒殺事件の恨みにより妻と次男が殺されたことが判明する。犯人捜しの要素があるので、ミステリーとしての面白さもある。

遊斎がどこかつかみどころがなく、何を考えているのかわからない。それでいて、最初から事件の真相を理解しているようなそぶりもある。遊斎と同じような能力を持つ者の存在や、化け物に対する対応など、遊斎がすべてにおいてレベルが高いというのが伝わってくる。

物語としては続くのだろう。ただ、高齢の作者なだけに、他に未完のシリーズもあることから、どれだけ本シリーズに力を入れるかがポイントなのだろう。楽しみなシリーズであることは間違いない。

京極堂シリーズもそうだが、楽しみなシリーズはなかなか続きが出版されない。



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