邪魅の雫 


2006.10.7 油断すると置いてけぼりだ 【邪魅の雫】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
待望の京極夏彦の新作。久しぶりに読む京極作品は手ごたえ十分だった。その弁当箱並みの厚さもさることながら、1ページにぎっしりとつまった文字と内容の難しさ。難しい漢字が出てくるのも読むスピードが落ちる原因だろう。しかし読むのにてこずるだけの価値はある。今までのシリーズ作品と比べると多少メインキャラクターの活躍度が少ないような気がするが、後半からはいつもの雰囲気を全開にして読み進める手を止めることができなかった。今回は特に妖怪にまつわるものという雰囲気よりは、終始一貫したテーマ。世間とは何かということを用いている。いつも以上に考えさせられるものがあるが、作品としては少し難しかった。これは京極作品初心者にはちょっと厳しいかもしれない。

■ストーリー

「殺してやろう」「死のうかな」「殺したよ」「殺されて仕舞いました」「俺は人殺しなんだ」「死んだのか」「―自首してください」「死ねばお終いなのだ」「ひとごろしは報いを受けねばならない」昭和二十八年夏。江戸川、大磯、平塚と連鎖するかのように毒殺死体が続々と。警察も手を拱く中、ついにあの男が登場する!「邪なことをすると―死ぬよ」。

■感想
中盤までひたすら、次々と登場する登場人物達の心の動きをつづっている。今までの京極作品には珍しくメインのキャラクター達が活躍しない。あるのはひたすら事件に関わる人々の生活や心の動き。そして場面がめまぐるしく変るので、油断すると今はいったいどういった状況で誰の話をしているのか分からなくなる場合がある。難しい文章もさることながら、今回は主語をはっきりと理解して読まないと混乱する可能性がある。

前半がバラバラに展開されていたのとは一変して、後半はそのばらばらなパズルを少しづつヒントをだしながら完成させていく、そんな雰囲気が表れてきた。今までならばそれを行うのは全て京極堂だったのだが、今回は京極堂が登場する前にある程度、物語の概要をつかむことができた。これによって、京極堂の登場前に全体像を把握することができた。あとは京極堂の登場により、どうやって憑き物を落とし、根本的な原因を探ってくれるのかを心待ちにするだけだった。

残念だったのはいつものキャラクターがほとんど活躍しなかったことだ。関口、榎木津などは今までの作品と比べるとはるかに登場シーンが少なすぎる。京極堂にしても他の登場人物と比べるとやはり登場シーンは少ないだろう。それだけその他の人物描写に力が入っていたという表れなのかもしれない。

今回は今までのシリーズのように
小難しい妖怪がらみの薀蓄がない。それなのにこの長さはそれだけ複雑な事件だということを示している。事件が複雑で登場人物が多ければ、理解するのも難しい。本作を読む人はそれを心に留めて、しっかりと気合を入れて読んでほしい。途中で挫折しなければ最後には必ず面白かったという感想がまっているのだから。



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