おもかげ 


 2018.5.17      危篤状態の男の意識は… 【おもかげ】

                     
おもかげ [ 浅田次郎 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
定年の日、送り出された帰りの電車内で脳梗塞で倒れた竹脇の物語。危篤状態の竹脇の周りにお見舞いに来た者たちの視点で物語は語られている。竹脇は両親がいない孤児の状態から商社マンとして成功した人物だ。同僚の堀田は社長にまで登りつめ、娘は結婚し孫にも恵まれている。

人生の終わりとしては、これ以上ないほど恵まれている。ただ、竹脇にひとつ気がかりがあるとすると、それは母親を知らないということだ。竹脇に関連する人々がそれぞれの思いを語る。隣のベッドで危篤状態のおじいさんまでもが霊体となり竹脇と町を歩く。登場人物すべてが竹脇となんらかの関係がある。序盤で登場してきたキャラクターが非常に重要だということが後半になるとわかってくる。

■ストーリー
商社マンとして定年を迎えた竹脇正一は、送別会の帰りに地下鉄の車内で倒れ、集中治療室に運びこまれた。今や社長となった同期の嘆き、妻や娘婿の心配、幼なじみらの思いをよそに、竹脇の意識は戻らない。一方で、竹脇本人はベッドに横たわる自分の体を横目に、奇妙な体験を重ねていた。やがて、自らの過去を彷徨う竹脇の目に映ったものは――。

■感想
地下鉄で倒れた竹脇。危篤状態のまま、家族や孫たちに囲まれ幸せな最後を迎えるのかと思いきや…。竹脇に関連する様々な人たちが、それぞれの思いを語る。印象的なのは、竹脇の義理の息子だ。養子ではないが、竹脇のことを慕う娘婿。荒っぽい性格ではあるが、幼馴染の弟子であり、娘の旦那ということで竹脇との関係も深い。

それぞれのキャラクターが何か心に傷を負っている。義理の息子にしても、離婚した母親が男をとっかえひっかえするタイプで、グレて人生が破滅に向かう直前のところを、竹脇の幼馴染に救ってもらった形だ。

竹脇自身が孤児であり両親の顔を知らない。名前すらも仮の名前だ。そんな竹脇だが、危篤状態となると、様々な人が訪ねてくる。それも霊体となり、危篤状態なはずの竹脇と町をブラついたりもする。序盤では竹脇とはほとんど関係ないような人物が竹脇を訪ねてくる。

竹脇自身も嫁のジム仲間かと疑問に思うのだが…。この伏線がラストの感動を引き起こす。まったく関係ない、偶然隣のベッドで同じく危篤状態であったカツさんですら、竹脇の人生には重要な役割をはたしていたとあとでわかることになる。

ファンタジーあふれる流れではあるが、感動がある。竹脇は生い立ちの不遇さを除けば、まさに順風万班な人生をすごしてきた。そんなエリート商社マンが主人公ということで、どのような流れになるのか不安だったが、十分感動できた。

死を意識しながらも、そうとは感じさせない霊体たちとの会話。竹脇が取り乱すでもなく、現実と考え、相手のことを知り合いの知り合いだとか無理やりあてはめようとするのが良い。悲しい別れのはずが、そこに変な希望のようなものがあるのも不思議だ。

あんがい、危篤状態の人は、本作の竹脇のように全ての会話を理解できているのかもしれない。



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