ニュートンの林檎 下 


 2019.12.9      実の母親を標的にする息子 【ニュートンの林檎 下】

                     
ニュートンの林檎(下) (集英社文庫) [ 辻仁成 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻から引き続き、元子と僕の物語となる。上巻ではサブカルチャー的な雰囲気が強かったが、下巻となると一気にバイオレンスの要素が強くなる。元子が実はイタリアで殺し屋をやっていた。遣いきれない大金を殺し屋家業で手にしていた。

その理由としては、元子は恋人を殺された復讐として荒武に最も苦しい罰を与えようと考えていた。きな臭い流れと共に新たに登場してくる者たちが、全てどこかで繋がっているのがすさまじい。アリエの息子と元子が恋人同士になり、最終的には結婚までいきつく。かと思うと、元子の子どもが和虎と名前を変えて元子を殺そうとする。すべては不幸の連鎖が続いている。辻仁成風の作品ではない。革命を起こしたいなどと叫ぶあたり、村上龍的な印象をうけた。

■ストーリー
1990年、秋。僕はその夏ヴェネツィアで再会した佐伯元子からの連絡を待っていた。元子の心には、愛する男を惨殺した者への復讐の炎が燃えていた。復讐計画を実行に移すべく帰国した元子とともに、僕は九州の小都市へと出発する。新たな冒険譚がはじまった…。そして世紀末。宇宙的な円運動の中で、ひとつの愛が終息する。しかし引き合う魂の彷徨は終わらない。2005年、僕は―。長大なスケールの完結篇。

■感想
上巻までで、元子のイタリアでの状況が描かれていた。そこから元子が荒武への復讐のために動き出す。元子が実はイタリアで殺し屋をしたことで大金を手に入れたと告白する。それはすべて荒武への復讐のため。すさまじい執念の源になるのは、元子と恋人の息子を荒武に奪われたからだ。

元子の荒武への復讐手段は、荒武が何より愛する息子を奪い取ること。元子の実の息子であるだけに、それは正しいことのように思えるのだが…。ここでもすんなりと復讐は成功しないことになる。

物語はいくつかの出来事でぶつ切りとなり、その出来事のたびに僕の状況も変化していく。有名映画監督からいったんは半引退状態となり、そこから再度新しい映画撮影への意欲を増していく。そのたびに元子絡みで新たな問題が発生する。

元子の荒武への復讐。そして、映画を撮影するために元子と共同生活を始めた僕だが、そこに居候として入り込んだ男とのトラブル。この男が実はアリエの実の息子だという、なんだか新しい登場人物がすべて関係者と血が繋がっているような流れとなっている。

ラストでは元子の実の息子が和虎と名前を変え元子に復讐するという流れだ。すべては自業自得。僕に関しては元子の近くにいたから巻き込まれているような感じかもしれない。和虎は元子と血が繋がっているためかエキセントリックな言動を続ける。

和虎は革命を起こすだとか世界を変えるだとか自分の国を作るだとか言う。その結果、最後は元子は有り余る母性を和虎にぶつけることになる。それをぶつけられた和虎の方は、怯み恐れることになる。強烈なインパクトのある者たちばかりだ。

どことなく村上龍の作品に近いように感じられた。



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