飲めば都 


 2018.9.2      酒好きな女性編集者の物語 【飲めば都】

                     
飲めば都 (新潮文庫) [ 北村薫 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
妙齢の女性文芸編集者・都が主人公の連作短編集。女性編集者の日常をちょっと知的なうんちくをちりばめながら描かれている。編集者独自の仕事としての内容や、酒に男関係にと、落ち着いた口調で連作短編集として描かれている。都の周辺は、魅力的な人々ばかりだ。都が今風のドロドロとした人物ではない。

版画画家と出会いがあり、そのほかには、作家との仕事上の付き合いや、同僚の編集者との関係など、文芸編集者ならではの物語となっている。編集長とのやりとりや、都が編集部員と飲み歩いたりと、それなりに面白さにあふれている。本好きで酒好きの女子はもしかしたら共感できたかもしれない。ただ、ひとつ気になったのは、大事な原稿を持った状態で泥酔するまで飲むという部分だ。

■ストーリー
人生の大切なことは、本とお酒に教わった――日々読み、日々飲み、本創りのために、好奇心を力に突き進む女性文芸編集者・小酒井都。新入社員時代の仕事の失敗、先輩編集者たちとの微妙なおつきあい、小説と作家への深い愛情……。本を創って酒を飲む、タガを外して人と会う、そんな都の恋の行く先は? 本好き、酒好き女子必読、酔っぱらい体験もリアルな、ワーキングガール小説。

■感想
都の編集者としての実力はどの程度かわからないが、北村薫が描くキャラクターとしての丁寧な口調が印象深い。今風のチャラチャラとした女性編集者ではない。文芸誌で働くしっかりとした女性編集者が描かれている。本を作ることを仕事としているので、当然仕事相手は作家ばかりだ。

都の新入社員時代の失敗談や、ちょっとした謎を絡めた物語が秀逸だ。都の先輩たちは、都の疑問にすぐさま答えてくれるのだが、たまにうその逸話をしたりもする。それがまた秀逸なため、思わず他人に言いふらしたいような内容となっている。

都の恋愛模様も描かれている。ただ、それはドロドロとしたものではない。突然、付き合っていた彼氏にふられる。彼氏は新しい彼女を作り結婚まで考えていた。その相手というのが、明らかに男を手玉にとるたぐいの小娘らしい。

元彼が必死で彼女のことをフォローするのだが、すべてに対して都は女の策略を見破っている。この何とも言えない女のこわさというのが伝わってきた。ただ、都はそこからドロドロとした感情に移行するのではなく、さっぱりと元彼のことを忘れるあたりがよいのかもしれない。

都は仕事で知り合った新しい彼氏ができ、そこから仕事でもプライベートでも順調な日々を過ごす。そして、最後には都は結婚にまでこぎつけることに…。世間でいう女の執念というようなものは感じない。シンプルに仕事を頑張り酒を飲む女という感じだ。

彼氏との関係についてもドロドロとしたものではない。忙しい編集者に合わせてくれる優しい彼氏というのもあるのだろう。飲んでべろべろになり前後不覚になることはたまにあってもトラブルを起こすことはない。良い飲み方なのだろう。

のん兵衛の物語ではない。



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