猫を棄てる 父親について語るとき 


 2021.6.14      村上春樹が父親を語る 【猫を棄てる 父親について語るとき】

                     
猫を棄てる 父親について語るとき [ 村上春樹 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
村上春樹が父親について語る。父親との交流で得た情報を元に、正確な情報を調査して父親の物語とする。冒頭、幼少期の作者が父親と共に猫を棄てにいく場面から始まる。そこで棄てたはずの猫が、いつの間にか家に戻っていた下りがある。そこから父親がどのような人生を過ごしてきたのかが語られる。

作者の父親は世代的に戦争をモロに経験した世代なので、兵士として招集されたにも関わらず生き残れたことは幸運なのだろう。京都大学の学生であり、戦争も経験し、祖父の寺を継ぐかどうかなど、作者がその当時の父親の心境を想像しながら語る。自分の父親について語るのは独特なのかもしれない。自分が父親の期待に応えられなかったなど作者なりの父親に対する思いが興味深い。

■ストーリー
時が忘れさせるものがあり、そして時が呼び起こすものがある。ある夏の日、僕は父親と一緒に猫を海岸に棄てに行った。歴史は過去のものではない。このことはいつか書かなくてはと、長いあいだ思っていた。―村上文学のあるルーツ。

■感想
父親について語るというのはなかなかない。作者も、そもそも父親との関係は悪かったらしい。晩年となり、やっと父親と打ち解けて会話ができるようになったとのこと。そんな作者があらためて自分の父親のことを語る。冒頭、父親と春樹少年が猫を棄てに行く。

今ならば問題なのだが、戦後まもなくであれば問題なかったのだろう。棄てたはずの猫がいつの間にか家に戻っている。戻ってきた猫を見て、父親は再び猫を棄てようとは考えない。親子関係がよくわかるような冒頭となっている。

日中戦争と太平洋戦争を経験した父親。戦争を生き抜いた世代として、運がよかったというのもあるのだろう。作中では、理由は語られていないが、なぜか軍から戻され学生の身分に戻っていたりもする。父親や母親から聞いた話を元に事実と照らし合わせる。

父親がそのまま軍隊にいたとしたら、フィリピンでの戦いで死んでいたのかもしれない。90%近くが死亡した戦いへ行くことなく生き残る。戦争がなければ母親は別の人と結婚していたなど、両親のIFを語る場面は妙な雰囲気がある。

父親は勉強に熱心で、時代に翻弄され自分のやりたいことができなかったらしい。作者に対しては、思う存分勉強ができる環境を用意したのだが、作者は父親の思いに反して勉強が嫌いになる。父親の期待を裏切り続けたことで作者なりに父親に対して負い目があるらしい。

お互いの本音を語れるまでになるには、それなりの時間がかかったようだ。小説家として成功した作者だからこそ、父親のプライベートな部分を含め作品として発表できるのだろう。独特な挿絵が作者の雰囲気にあっている。

挿絵がなければ少し物悲しい雰囲気となる。



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