2019.10.12 古典の謎にせまる編集者 【中野のお父さんは謎を解くか】
中野のお父さんは謎を解くか/北村薫
評価:2.5
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■ヒトコト感想
編集者の娘とその父親がおりなすちょっとした謎解き物語。娘は編集者という特性上、さまざまな文学に関する謎を抱えてしまう。日常の謎というべきなのだろうか。文学の要素が強く、特に古典についてある程度知識がない辛く、でてくる固有名詞を知らないとあまり楽しめないかもしれない。
作家が缶詰になることに対するさまざまな蘊蓄が登場したり、どのような裏技をつかって大量の仕事を処理していたかなど、その作家を知っていればより楽しめるような流れとなっている。当て逃げ犯の話や、世間一般に信じられていた文豪同士の喧嘩が、実は大きな誤解があったなど、作者のこのあたりの文学的な知識が、読者に新たな展開を提供している。
■ストーリー
意外な当て逃げ犯、文豪同士の喧嘩、病床の夫が呟いた言葉の意味。編集者の娘が職場や本の中で出合う謎を父が解く。
■感想
編集者として忙しく働く美希は、仕事をしていく中でさまざまな謎を見つけだしてしまう。些細な日常の謎から文学的な歴史に関わるものまで。美希はその謎を中野に住む国語教師の父親に相談する。実家が中野というのが電車でフラリと寄れることもあり、美希は頻繁に実家に帰り父親に相談する。
中野の両親も美希がやってくるのを心待ちにしている描写すらある。電話で済むようなことも、父親は複雑だからと美希を家に呼んだりもする。小むずかしい話が続くのだが、基本は父親と娘のほのぼのとした交流が描かれた作品だ。
古典にまつわる謎が多い。昔の文豪同士の喧嘩の話となり、美希はそのことについて父親に相談する。文豪同士の喧嘩は、師匠を侮辱されたことに怒り弟子が相手を殴りつけたことになっている。実はそれが誤りで数々のエピソードがごちゃ混ぜになった結果、一人歩きしたエピソードらしい。
このあたりは、作者が調査したことがベースとなっているのだろう。さながら、この中野のお父さんは作者自身のことなのかもしれない。常々古典好きをアピールしていた作者ならでわの作品だ。
物語の中で父親が倒れた描写がある。年齢的にも体には気を付けなければならない。中野に住んでるとはいえ、いざという時には何が起きるかわからない。一瞬、シリアスな流れになるかと思いきや、このエピソードも父親のひとつの謎解きとして展開されている。
父親だけでなく、娘の編集者としてのあるあるも語られている。編集者が結婚するのは同業者が多い。出版記念パーティーなどで出会い、意味深なやり取りをしていたカップルが実はのちに結婚したり…。
シリーズとしてはまだまだ続く感じだ。
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