長く高い壁 


 2018.9.11      軍隊でしか通用しない論理 【長く高い壁】

                     
長く高い壁 The Great Wall [ 浅田 次郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
従軍作家の小柳が万里の長城で日本軍の兵士たち10人が死んでいたことを調査することになる。小柳が探偵小説の作家ということで、調査の依頼が舞い込んだのだが…。現地で生き残った兵士たちに話を聞くことで真実が明らかとなる。単純な探偵小説ではない。川津中尉と共に兵士たちに事情聴取することで、戦死ではないのではないか?という疑念がわく。

戦時中ならではのカオスな状況で、軍人独特の考え方が物語に色濃く反映されている。戦場で敵に殺されるのと、仲間に毒殺されるのでは意味合いが大きく変わる。兵士たちは保身のための嘘や、隊の名誉のための嘘など、それぞれには独自の考えがある。単純なミステリーではない戦争小説と言ってよいだろう。

■ストーリー
1938年秋。流行探偵作家の小柳逸馬は、従軍作家として北京に派遣されていた。だが、突然の要請で前線へ向かうこととなる。検閲班長の川津中尉と共に、北京から半日がかりで辿り着いた先は、万里の長城、張飛嶺。そこで待っていたのは、第一分隊10名が全員死亡という大事件だった。

なぜ、戦場に探偵作家が呼ばれたのか。10名は戦死ではないのか!?分隊内での軋轢、保身のための嘘、軍ならではの論理―。従軍作家の目を通し、日中戦争の真実と闇が、いま、解き明かされる。「戦争の大義」「軍人にとっての戦争」とは何かを真摯に捉え、胸に迫る人間ドラマ。

■感想
小柳は万里の長城にて兵士10人が死んだ事件を調査することに。隊の中でのイジメや、恨みつらみなどがあり、誰が事件を起こしたのかは明らかにならない。戦時中であれば、どのようなことも起こりえる。軍隊の中にいれば腹いっぱい飯が食えるからとやってくるのだが…。

料理店の店主や医者まで巻き込んで事件の詳細を調査する。階級よりも、どれだけ軍隊の中で過ごしたかで価値がきまる。職制上の上司であっても、学校でたての士官であればまったく役には立たない。実戦経験者が重宝される世界だ。

階級よりも兵士歴が重要となる社会なだけに、現場ではいびつな状況が生まれている。軍隊という閉鎖した社会の中では、ひとたびイジメが発生するとイジメられている立場の者は逃げ場がなくなってしまう。

イジメを理由にして同僚たちを毒殺したのか、それともこの現状に嫌気がさして同僚を毒殺し、犯人も同時に自殺したのか。ミステリアスな状況ではあるが、それぞれ生き残った兵士たちが語る言葉の中に真実が見えてくる。正義感の強いある兵士だけが、他の兵士とは違った証言をする。

軍隊ならではのしきたりというか、理由があるのだろう。それは正常な社会では通じない論理だ。軍隊というのは、ひとりでもダメな者がいれば、軍全体が危険にさらされることがある。そのためダメな兵士たちは、ダメな兵士たちで固められることがある。

そんなダメ兵士の吹き溜まりが、殺された兵士たちがいた部隊だった。軍人にとって何が一番重要なのか。戦争中であればこそ許されることもある。小柳はすべてを知ったからこそ、真実を隠蔽し、あたりさわりのない調査結果を書いたのだろう。

戦場ではあらゆることが起きる可能性がある。



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