盲剣楼奇譚 


 2021.9.21      ある意味、剣豪小説だろう 【盲剣楼奇譚】

                     
盲剣楼奇譚 [ 島田荘司 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
島田荘司の久しぶりの吉敷シリーズ。ただ、吉敷や通子はあまり活躍しない。盲剣楼での伝説にほとんどのページが費やされている。ミステリー的には、終戦直後の大量惨殺事件の犯人は誰か?ということになる。盲剣楼の伝説のように美剣士が暴徒たちをたったひとりで斬り殺したのだろうか。過去の事件の生き残りのひとりが子供を人質にとり、当時の犯人を連れてこいと要求する。

物語のメインは盲剣楼の伝説の美剣士についてだ。これがありきたりな剣豪物語なのかもしれないが、強烈な引きの強さと感動がある。剣の道に生きる剣士が、妻と子供を助けるために目が見えない状態でありながら、子供を背負って戦い続ける。それまでの濃密な物語が最高だ。

■ストーリー
江戸時代から続く金沢の芸者置屋・盲剣楼で、終戦直後の昭和二十年九月に血腥い大量斬殺事件が発生した。軍人くずれの無頼の徒が楼を襲撃、出入り口も窓も封鎖されて密室状態となった中で乱暴狼藉の限りを尽くす五人の男たちを、一瞬にして斬り殺した謎の美剣士。それは盲剣楼の庭先の祠に祀られた伝説の剣客“盲剣さま”だったのか?七十余年を経て起きた誘拐事件をきっかけに、驚くべき真相が明かされる!?

■感想
終戦直後に迷宮入りした事件がある。盲剣楼に押し入った暴漢たちを皆殺しにした剣士。過去の事件を恨みに思う生き残りの男が子供を人質として、剣士を連れてこいと要求する。警察には連絡できないということで知り合いのツテで吉敷へと連絡が入る。

盲剣楼の美剣士の伝説が序盤に説明され、美剣士が子供を背負う姿が絵として登場してくる。そんな伝説を模したような事件が過去に起きていた。事件については、特別なミステリー感はない。暴漢たちを皆殺しにしたのは、誰なのかが物語のポイントとなっている。

本作のほぼ8割を占めるのは盲剣楼の伝説だ。若き剣士が剣を極めることにまい進する。立ち寄った村で暴漢たちの横暴に苦しむ村人をしぶしぶ助ける剣士。この剣士のキャラクターが良い。欲がなくひたすら剣を極めることのみを考える。

それでいて美剣士のため、女たちがチヤホヤされる。このハーレム的な流れがどこまで必要かは微妙だが、剣士の活躍ぶりを読んでいるとワクワクしてくる。暴漢に支配された村を助けた後は、城下町で腕試しをするが相手になる剣士がいない。いつの間にか天下無双の剣豪となっていた。

盲剣楼の伝説の元となった物語が描かれている。多くの侍たちに守られた芸者小屋に妻と息子を助け出すために乗り込む。たったひとりで乗り込み、侍たちを切り捨て続けるのだが…。鉄砲により傷つき捕らえられ、ついには拷問により失明してしまう。

ただ、そこから目が見えない状態でも侍たちを切り捨て子供と妻を助け出している。長大な物語であるので、吉敷のパートの存在を忘れてしまうほどだ。盲剣楼の伝説が終わると、吉敷が美剣士の正体を明らかにする。

盲剣楼の物語のインパクトがすさまじい。



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