迷宮 


 2018.3.29      迷宮事件にとりつかれる者たち 【迷宮】

                     
迷宮 新潮文庫/中村文則(著者)
評価:3.5
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■ヒトコト感想
相変わらず作者の作品は、登場人物たちが闇を抱えている。主人公の男は心に闇をもつ。前向きや明るい気持ちとは対極にある人物だ。折鶴事件という一家惨殺事件の生き残りである女と知り合いになる男。そしていつの間にか折鶴事件に魅了されていく。まずこの折鶴事件が強烈にミステリアスで良い。作中の男だけでなく、読者に対しても強烈な引きの強さがある。

密室で起きた殺人事件。生き残りの少女が見たものとは…。父親は何者かに殴打され刺殺されていた。兄も殴打され刺殺され、母親は裸にされ刺殺されていた。折鶴事件に関わった者たちがみな異常な精神状態となっていく。それは調査した警察や医者も同様だ。この事件が読者の興味を惹きつけて離さないのだろう。

■ストーリー
胎児のように手足を丸め横たわる全裸の女。周囲には赤、白、黄、色鮮やかな無数の折鶴が螺旋を描く―。都内で発生した一家惨殺事件。現場は密室。唯一生き残った少女は、睡眠薬で昏睡状態だった。事件は迷宮入りし「折鶴事件」と呼ばれるようになる。時を経て成長した遺児が深層を口にするとき、深く沈められていたはずの狂気が人を闇に引き摺り込む。善悪が混濁する衝撃の長編。

■感想
弁護士を目指す男は、弁護士事務所で事務をしながら日々鬱屈したものを抱えながら生活していた。ある日、偶然出会った女と、女の部屋に転がり込んむ。そこから、男は女に魅了されていく。折鶴事件の生き残りだと知ると、折鶴事件への興味が増幅されていく。

序盤では男の不安定さと女のどこか統合失調症的な雰囲気を感じずにはいられない。迷宮事件として有名な折鶴事件を調べるうちに、女の家族の異常さが強烈に表現されてくる。このあたりで読者は事件に惹きつけられてしまうだろう。

父親が母親の浮気を心配するあまり、家の出入り口に監視カメラを仕掛ける。兄は精神に異常をきたし精神科へ通う。近所の怪しげな男が容疑者として逮捕されたが、世紀の冤罪事件として有名になる。折鶴事件の真相が段々と明かされると共に、物語の勢いと奇妙さは増していく。

誰が犯人なのかという興味だけで物語は十分成立しているのだが、そこに主人公の異常さが加わってくる。中村文則の物語は、総じて主人公が心に闇を抱えている。正常な精神でないことは確かだが、それが物語の良いスパイスになっている。

折鶴事件の真相は生き残った女の口から語られることになる。その内容は衝撃的だ。迷宮事件を調査し続けた人物が、事件に魅了されおかしな言動になるなど、すべての登場人物がどこか異常さを持ち合わせている。

男のことを折鶴事件の犯人だと直感的に判断するなど、おかしな言動は多々ある。物語全体として、その奇妙さがなんでもない事件をより不可解にしている。折鶴事件のインパクトと、いつもの中村文則のキャラクターたちが行動する。リア充や元気、明るいや前向きなどと全て対極にあるような物語だ。

病んでいる人が読むと変に感化されるかもしれない。



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