魔力の胎動 


 2019.3.13      ラプラスの魔女に続く物語 【魔力の胎動】

                     
魔力の胎動 /KADOKAWA/東野圭吾 (単行本)
評価:3
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■ヒトコト感想
「ラプラスの魔女」を読んでいればより楽しめるだろう。特殊な力をもつ円華が、ラプラスの魔女以前にその力の片りんを示していたことが描かれている。円華の能力をラプラスの魔女である程度把握していれば、楽しめることは間違いない。円華の不思議な力による救われる人がいる。スキーのジャンパーなどは、まさに気流を読むことができる円華の能力が一番役に立つだろう。

本作ではそれらが短編形式で描かれている。定番として、そんなことができるはずがないという入りからの、円華が能力の神髄を見せるまでがよい。人間には不可能と思われたことも、物理学上は可能と円華に言われるとそう思えてくる。現実にも、人間では不可能かもしれないが、コンピュータならば円華と同等の能力がはっきできるのではないだろうか。

■ストーリー
自然現象を見事に言い当てる、彼女の不思議な“力”はいったい何なのか――。彼女によって、悩める人たちが救われて行く……。東野圭吾が価値観を覆した衝撃のミステリ『ラプラスの魔女』の前日譚。

■感想
第1章は記録が伸びず引退を覚悟したスキージャンパーに円華がアドバイスする物語だ。ここで円華が気流を読み、ジャンプに適したタイミングを指示する。お決まり通り、最初はただの小娘のたわごとだと誰も信用しないが、遂には円華の能力を信じずにはいられない状態となり…。

ただ、単純に円華がタイミングを知らせ、よい風がきて記録が伸びる類の物語ではない。どうしても良い風がこない日にも、勝たせるための方法を示しているのが物語が単純ではない部分だ。

第2章から4章までは、基本は円華の能力が物語のスパイスとなっている。ナックルボールの軌道や川の流れの動き、そして山の中腹での風の動きなど。ただどの物語も円華の能力が決定的な解決策とはなっていない。

一種のスパイスで、その後の解決はみな自分たちで決着をつけている。円華はそのきっかけを与えただけにすぎない。特に第4章では、1章から狂言回し役となっていたナユタのセクシャリティな部分が語られている。1章からその伏線を張っていたということには驚かずにはいられない。

表題作でもある第5章だけは毛色が変わっている。ここでは、円華は登場せず「ラプラスの魔女」へとつなげる事件が語られている。すでにラプラスの魔女を読んでいる人にとっては特別な印象はないのだが、硫化水素で自殺を考える人物が登場するなど、作品としてリンクさせようというのが伝わってくる。

人間では到底予測できない不規則な動きを予測できる特別な能力をもつ少女。短編の中にはその能力が生み出された要因のようなものも語られている。

ラプラスの魔女を読んでから、本作を読むべきだろう。



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