ラプラスの魔女 東野圭吾


 2016.7.16      すべてを計算で求める驚異的な能力 【ラプラスの魔女】

                     
ラプラスの魔女 [ 東野圭吾 ]
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■ヒトコト感想
硫化水素による死亡事故が発生し、いかにも仕組まれたもののような印象を残しつつ、不思議な力をもつ円華の能力が語られる。完全に事故と思われるような状況であっても、何かがあるというのは感じてしまう。その何かがどのようなものなのか。作者の作品であれば、ファンタジーで終わることがないのはわかっていたので、真相解明に向けて、ページをめくる手を止めることができなかった。

どのような特殊な能力があれば、硫化水素を自由自在に操ることができるのか。研究者の検証と、その後の謎の解き明かし方は鮮やかだ。不自然な自然現象を事前に察知できる能力。ちょっとした予知能力風だが、作者の答えはそうではない。さすがに目の付け所がすごい。

■ストーリー

円華という若い女性のボディーガードを依頼された元警官の武尾は、行動を共にするにつれ彼女には不思議な《力》が備わっているのではと、疑いはじめる。同じ頃、遠く離れた2つの温泉地で硫化水素による死亡事故が起きていた。検証に赴いた地球化学の研究者・青江は、双方の現場で謎の娘・円華を目撃する――。

■感想
いくつかの目線で物語は動いていく。ボディーガードの武尾が円華の謎の力に驚く。そして、研究者の青江は硫化水素が偶然の要素で一部の場所に集まることを不思議がりながらも、事故として処理する。様々な要素が絡み合いながら物語はすすんでいく。

風に流れる硫化水素がどのように変化するか予測できるわけがない。という思いで読みながらも、不思議な力を披露する人物が登場してくると、否が応でも科学的な能力の解明に期待が膨らんでくる。特殊な能力をもつにいたった経緯についても気になるところだ。

物語は不思議な能力をもつ者が、どのようにして生まれたのかが描かれると、予測できない方向へと物語は動いていく。昨今のSNSやネットでの情報が物語のカギとなる。そして、すべての物理現象は計算により予測ができるという、とんでもない結論になっている。

ただ、とんでもない理論だが説得力のある説明がなされている。手のひらからサイコロを落とした瞬間に、地面との摩擦などで出目を予測する。無茶苦茶なことだが、それができる能力を、脳に仕掛けをすることで身につけることができる。

驚異的な計算能力をもつことで、物理現象を予測できる。そして、遺伝子の欠陥から自分の子供を愛せない男など、特殊な状況が目白押しとなる。理系の作者らしい作品だろう。ファンタジーの要素はなく超能力としての予知ではない。動機についてもそこまで重視していない。

物理現象を予測することの不思議さを描き、それによりどのようなことが可能となるのか。悪用するのか、それとも…。硫化水素の流れをすべて予測してしまえば、人を殺すことも可能だという流れが恐ろしい。

理系小説が好きな人も、そうでない人も楽しめる作品だ。



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