2018.10.12 教祖のカリスマ性と教団の恐ろしさは比例する 【教団X】
教団X / 中村文則
評価:3
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■ヒトコト感想
謎の新興宗教を描いた作品。奇妙な老人・松尾が語る言葉にはよくわからない迫力がある。人間の脳や人間を構成する原子の話など非常に小難しい内容がわかりやすく語られている。そこから対立する宗教組織である教団Xの存在が語られる。性の解放をうたう謎の教団。そこに関わることになった楢崎や教祖である沢渡、そして公安や謎のテロ組織など複数の視点から物語が描かれている。
どこか村上龍的であり、宗教の恐ろしさを感じさせる作品だ。アフリカの某国で発生したテロ、そしてテロ組織に捕らえられ仲間にさせられた高原など、皆がそれぞれ複雑な経験をしている。ラストでは宗教組織が日本を揺るがすようなテロを実行し、日本中を震撼させるという流れだ。
■ストーリー
突然自分の前から姿を消した女性を探し、楢崎が辿り着いたのは、奇妙な老人を中心とした宗教団体、そして彼らと敵対する、性の解放を謳う謎のカルト教団だった。二人のカリスマの間で蠢く、悦楽と革命への誘惑。四人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。著者の最長にして最高傑作。
■感想
楢崎が恋人を探し、たどり着いた先は、奇妙な宗教団体だった。当初は教祖である松尾がすべての元凶かと思いきや…。対立する教団Xがすべてのカギを握っていた。まず松尾が語る言葉がすさまじい。人間の根本を揺るがすような、普通では考えられない思考にたどり着いている。そして、それを言葉にして説得力のある内容としている。
原子の動きや、脳の働き、人はどうなるのか。まさに宗教団体の教祖が言いそうな言葉が怒涛のごとく語られている。ただ、松尾はカルトへと走るのではなく、ただ自分の話をみなに聞かせたいだけだった。
教団Xはすさまじい。性を解放する宗教団体で、楢崎はさっそくその洗礼を浴びることになる。教祖である沢渡も、元は松尾と共にある人物を師事していた。教団Xの幹部である高原は、楢崎と関係の深い女性を引き付けてやまない強烈な魅力をもつ男だ。
この高原を中心とした世界もまたすさまじい。アフリカでの死を目の前にした経験。そしてテロ組織に組み込まれ、日本に帰ってからもテロを実行しようとする。教団Xが公安に目を付けられ、アジトに押し入ろうとしたとき、新たな計画が動き出す。ラストへ続く展開はすさまじい。
マスコミを使った誘導とテロの恐怖。本作で描かれたテロ計画は、現実に実行されたとしたら、警察は手も足もでないだろう。名前が存在しない公安の幹部が動き出し、世論を操作し国家が正しいと国民を欺くための行動をとる。名もなき公安は恐ろしい。
自分は役職の存在でしかない。いずれ別の人間がその役職につくことで目的は果たされる。まさに日本の責任者不在の状況が描かれている。新興宗教の恐ろしさは、教祖のカリスマ性が強烈なほど、その恐ろしさも比例するようだ。
オウム事件以上のとんでもない事件であることは間違いない。
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