去年の冬、きみと別れ 


 2019.3.24      動機が不可解な猟奇殺人事件 【去年の冬、きみと別れ】

                     
去年の冬、きみと別れ[ 中村文則 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
ライターの僕が混乱していく様が描かれている。猟奇殺人事件の被告の言葉と、その事件を想像し何が行われていたかを連想する。生きた人間を生きたまま焼くことができるのか。事件の関係者。特に容疑者の姉はその異常性が際立っている。そして、被害者の女たちも。

登場人物の誰もがどこか異常さを隠しきれずにいる。読んでいると、その登場人物たちの異常さに、いつの間にか共感していく自分が恐ろしくなる。心が歪んだ者たちが、自分が当たり前だと語る。常識と非常識、正常と異常。それらの間を行ったり来たりしているような気分になる。異常な事件の裏側には、異常な人物が必ずいるということなのだろう。事件の真相を探ろうとしたライターも異常だ。

■ストーリー
ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は二人の女性を殺した罪で死刑判決を受けていた。だが、動機は不可解。事件の関係者も全員どこか歪んでいる。この異様さは何なのか? それは本当に殺人だったのか? 「僕」が真相に辿り着けないのは必然だった。なぜなら、この事件は実は――。

■感想
ライターが猟奇殺人事件の容疑者に面会に行く。容疑者から数珠繋ぎに次々と異常者が登場してくる。明らかに異常なわけではなく、どこかおかしい者たちばかりだ。正常な感覚でいると、混乱することは間違いない。猟奇殺人事件の被告の姉は、ライターに対して異常な行動を繰り返す。

写真家だったり人形師だったり、そこには常に異常な者たちの異常な考え方が蔓延している。かろうじて正常を保っていたライターには、事件を正確に描くことはできない。

被害者の女たちもどこか異常だ。目の前でモデルの女が火で焼けていくのをただ見守るしかない被告。人が焼ける瞬間を写真におさめることができるのか。異常な事件は、事故なのかそれとも…。

異常心理を理解するのは難しい。ライターが真相にたどり着けないのは、ライターが正常だからだろう。事件の真相として、被告の殺人への動機を探ろうとすると、絶対に真相は明らかにならない。冒頭からその異常性は明らかなため、どこかで、どんでん返しがあるのかと期待していたが…。

復讐に動き出す男もいる。ごく普通のミステリーのように考えてはならない。明らかに計画に穴があったとしても、警察がそこを突くことはないし、計画する側もそこを気にすることはない。あるのは、異常な心理からの行動と、それが成功するかどうかだ。

もしかしたら、世間の猟奇殺人事件は、本作のような思考原理で行われるのかもしれない。正常な人には理解できない心境であることはまちがいない。この強烈な異常さを共感できる人はいるのだろうか。

作者の作品の中でも異常さはピカイチだ。



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