虚談 


 2018.8.15      嘘を見抜くことができるか 【虚談】

                     
虚談 [ 京極 夏彦 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
嘘が混じった話が続く短編集。特徴的なのは、物語の前半部分で「この話には嘘がある」というような記述がある部分だ。嘘があると言われながら読む。どこが嘘かで大きく印象は変わるのだが、そのあたりは最後まで明かされることがない。そのため、本当に嘘なのか、それとも嘘だと思い込んでいるのか、妙なモヤモヤ感が残る。嘘なのか本当なのか。

最後につっこまずにいられない気持ちになるのは間違いない。9つの短編はそれぞれ特徴があるのだが、ひとつが30ページほどと短い。あっという間に読み終わるが、なんとも言えないゾッとした気持ちとなるのは間違いない。本来なら死んで存在しないはずの者が身近にいるというたぐいは、妙な恐ろしさがある。

■ストーリー
元デザイナーで小説家の「僕」は、知人友人からよく相談を受ける。「ナッちゃんはそういうの駄目な口やろ」と笑いながら、デザイン学校時代の年上の同輩、御木さんは奇妙な話を始めた。十三歳のときに山崩れで死んだ妹が、年老い、中学の制服を着て、仕事先と自宅に現れたというのだ。だが彼の話には、僕の記憶と食い違いがあり―(「クラス」)。この現実と価値観を揺るがす、全9篇の連作集。

■感想
「レシピ」は、大垣という高校生が当時付き合っていた女の話を語ることから始まる。チャラ男だった大垣が唯一強く印象に残った女・清美。そんな清美は実は家が火事になりそのまま別れたはずだったのだが…。清美が様々なショックで命を絶ったはずだが、なぜか大垣の近辺で姿を現すようになる。

どこからが嘘でどこからが真実なのか。最初から怪談だといわれるのと、嘘があると言われるのでは、印象が異なる。最初は相談主と大垣の会話がかみ合っていたのが、次第におかしくなっていく過程も面白い。

「シノビ」は少し特殊だ。家の屋根裏に忍者がいると語る相談者。ここでその奇妙な存在について語るのではなく、忍者について細かくウンチクを語っているのがよい。まさに京極作品ならではの展開だろう。ただ短編であるだけに深くは突っ込んでいない。

天井に潜んでいるのは動物ではない。まぎれもなく人間の足跡がある。となると、真実は何なのかを知りたくなる。ここで利いてくるのが嘘があるとういことだ。単純な話ではなく、少しひねりを利かせた状況となるのが本作のポイントなのだろう。

「クラス」では13歳の時に山崩れで死んだ妹が、最近になって年老いた姿で中学生の制服を着て現れたという物語だ。これだけで何がなんだかわからない。過去に死んだ妹が、昔の姿そのままに現れるならばわかる。それが年老いてとなる。

ここで、どうやって妹が年老いたと認識したかの疑問と、なぜ中学生の制服を着ていたのかという疑問がある。作中では、それぞれで記憶の混同があり、まさに何が真実かわからない状態となっている。嘘を含んだ物語の要素が詰まっている作品だ。

怪談とまではいかないが、奇妙な恐ろしさがある。



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