2018.9.15 藩主は怨霊にとりつかれたのか? 【この世の春 上】
この世の春 上 [ 宮部 みゆき ]
評価:3
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■ヒトコト感想
藩主に何者かの怨霊がとりつき、異常な行動をとるため、藩主は隔離される。その怨霊の秘密を解き明かすため、多紀や医者が奔走する。序盤では、何が起こっているのかよくわからない。ただ、藩主が多重人格のように、子供や女や別人の人格が現れるということが語られる。過去、みたまくりという魂を操る技を使う一族を滅ぼしたのが原因なのだろうか、それとも…。
今でいうイタコの一族を根絶やしにしたことの恨みから、藩主は精神に異常をきたしたのか。江戸時代であれば、精神疾患についてどれだけ理解があったのか。知識が整備されていない状態で、多重人格の症状が怨霊にとりつかれたと誤認識したのか、それとも本当に…。上巻では、状況の説明と藩主と多紀との交流が描かれている。
■ストーリー
小説史に類を見ない、息を呑む大仕掛け。そこまでやるか、ミヤベ魔術! それは亡者たちの声? それとも心の扉が軋む音? 正体不明の悪意が怪しい囁きと化して、かけがえのない人々を蝕み始めていた。目鼻を持たぬ仮面に怯え続ける青年は、恐怖の果てにひとりの少年をつくった。悪が幾重にも憑依した一族の救世主に、この少年はなりうるのか――。21世紀最強のサイコ&ミステリー、ここに降臨!
■感想
今でいうところのイタコと同様の能力がある一族は、みたまくりを操る能力があった。そんな一族が根絶やしにされた。同じ時期に藩主が精神に異常をきたしたことから…。物語のトーンは、藩主がみたまくりの一族の呪いにより怨霊にとりつかれたのでは?という流れとなる。
怨霊にとりつかれた説を主張する伊藤もまた、みたまくりの一族の生き残りであった。ここに、遠い親戚にみたまくりの一族がいた多紀が加わり、座敷牢に幽閉された藩主の世話係となり、何かを聞き出す役目をおうことになる。
多紀と藩主の交流により、藩主の中には子供と女と別の男の3つの人格があることがわかった。これがとりつかれた怨霊の正体なのか…。医者は怨霊にとりつかれた説を否定し、藩主の精神的な問題を見つけ出そうとする。時代が時代だけに、多重人格症についての知識はないのだろう。
それでも、医者としては、複数の人格が藩主の中に存在しているのなら、その人格が存在する根本原因を見つけ出そうとする。藩主のトラウマなのか、それとも別の要因なのか…。まだ上巻の段階ではそのあたりははっきりしない。
上巻では子供の人格については、それなりに状況がはっきりしてきた。それでも湖の中に存在したしゃれこうべを見たことにより、突如として藩主の中で女の人格が登場してくる。この女については、藩主に恋をしているようなそぶりもある。そして、同じ女である多紀を忌避するようなそぶりもある。
藩主の中に複数の人格が存在し、そのふたつまでが登場してくる。藩主がこんな状態になった根本原因は、下巻で語られるのだろう。怨霊なのか多重人格なのか。この世の春というタイトルが意味深に思えてしまう。
宮部みゆき作品らしい、おどろおどろしさがある。
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