2021.6.24 タイムスリップすると、そこは別の世界線の日本だった 【帰去来】
帰去来 [ 大沢在昌 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
刑事である由子は通称ナイトハンターにより首を絞められ昏睡状態におちいる。由子が目覚めた先は異次元の日本だった。この異次元の日本が衝撃的だ。まるで戦後まもない日本のように質素な服装と食べもの。現在の日本とは違う世界線の日本で、戦争には勝利しているが、とても豊かな暮らしをしているとは思えない。異次元の日本では、由子は警視として悪人たちを逮捕し続けている。
突如として女性警視となった由子の戸惑いと、元の世界へ戻るためのからくりが描かれている。異次元の日本と現在の日本を行ったり来たりできる特殊な受像機の存在や、異次元の日本からやってきた男がナイトハンターだったなど、由子の親の複雑な事情も絡めた特殊な刑事もの小説だ。
■ストーリー
警視庁捜査一課の“お荷物刑事"志麻由子は、連続殺人犯の捜査中に、何者かに首を絞められ気を失う。目覚めたのは異次元の「光和27年のアジア連邦・日本本共和国・東京市」だった……。その世界に存在するもう一人の自分は、異例の出世をした“東京市警のエリート警視"だった。彼女は闇組織から命を狙われ、警察内部でも汚職警官の摘発など、非情な捜査方法が非難を浴び、孤立無援であることを知る。
戸惑いながらも志麻由子は、光和27年の東京市で“エリート警視"になりすます。やがて、由子が異次元へタイムスリップした理由がわかってくる。元の世界に戻るには事件を解決するしかなかった。この世界の本当の彼女はどこへ消えたのか? 由子は元の世界へ戻ることができるのか?
■感想
お荷物刑事の由子が張り込み中にナイトハンターに首を絞められ異次元の日本へとたどり着く。序盤ではナイトハンターが過去に自殺したはずが、十数年後にまた動き出したことの奇妙さが描かれている。そこから由子の父親もナイトハンターに殺されたと由子は考えていた。
由子がたどり着いた異次元の日本は、戦争には勝利したが貧しい日本だった。この日本の描写が特殊すぎる。まさに戦後の日本のようにヤクザ組織に牛耳られ、警察内部も腐敗が進んでいる。そんな中で女性警視の由子は孤軍奮闘していた。現代の由子が突如として経験するにはハードルが高すぎる状況だ。
異次元の日本ではポジションが人を作ると同様に、お荷物刑事であった由子が警視という立場に似あう活躍をする。ヤクザのボスたちと渡り合い、さらには異次元の日本の秘密にまでたどり着く。異次元の日本での由子の父親が現在の日本の父親と微妙に異なることがポイントだろう。
現実とリンクしているはずの異次元の日本で、ほんのわずかに異なる部分がある。そこから、ナイトハンターが異次元と現在の日本を行ったり来たりしていた人物とわかると物語はがぜん盛り上がっていく。
時空を行ったり来たりする。その条件が絶妙だ。現実に自分と同じ人物が生きている場合、精神だけが移動する。同じ人物が死んでいる場合は、肉体も移動する。現実と異次元。そこに自分と同じ人物がいる。異次元の日本の人物からすると現在の日本は豊で天国のような環境なのだろう。
そこで連続殺人を続けるナイトハンターの異常性は、異次元の日本で作られたものなのだろうか。由子の親子関係も実は複雑であり、それは異次元の日本だけの話ではなく、現実の日本でも由子が知らないだけで隠された真実があった。
複雑な時空の行ったり来たりと親子関係の物語だ。
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