希望の糸 


 2020.6.20      特殊な事情の親子関係 【希望の糸】

                     
希望の糸/東野圭吾
評価:3
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■ヒトコト感想
加賀シリーズ。今回は親子関係に焦点が当てられている。生物学上の親と育ての親。自分には親がいないと思っていたら、実は親がいた。自分には子供はいないと思っていたが、実は自分のDNAを受け継いだ子供がいた。突然そんなことを言われ、中学生の子供を自分の子供と思うことができるか。子供からしても突然生物学上の親が登場したところで…。今回は事件自体は大したことはない。

事件に絡み、その周辺での出来事が語られる。事件の直接の動機となるものではないので、事件のミステリアス感はない。本作の登場人物たちは執拗に子供に執着している。血が繋がっている子供がいることがわかったところで、今更感があるのではないかと思わずにはいられない。

■ストーリー
死んだ人のことなんか知らない。あたしは、誰かの代わりに生まれてきたんじゃない。 そのころ、松宮には突然覚えのない人物から連絡がきた。末期ガンにより死を覚悟した男は、遺言に実の息子の存在を明らかにした。その人物とは…。そうとは知らない松宮は…。

■感想
加賀シリーズは多数出版されているが、事件のミステリアス感はほぼない。真犯人が判明したとしても驚きはない。物語の中盤で犯人が加賀に自供する。加賀自身も拍子抜けするほどあっけなく解決する。読者としてはこの犯人はフェイクで別の真犯人が後半に判明するものと思って読み進めるのだが…。

最後まで犯人は変わらない。今回、事件は重要ではないということなのだろう。事件の関係者たちに起きた親子の関係のゴタゴタがメインだ。冒頭で、遺言状に松宮の名前が書かれていることで物語の引きとしているが、その理由は中盤で判明してくる。

子供を震災での事故で失った夫婦は、希望を取り戻すため子供を作ろうとする。高齢出産となったが無事に子供が生まれスクスクと育ったのだが…。実はその子供は自分たち夫婦の子供ではなく、まったく別の夫婦の子供だった。

よくある新生児の取り違えではなく、不妊治療の卵子の間違いというパターンだ。本作を読んでいると、不妊治療を行った医者が両親に話をしなければ誰も知らず平穏な親子関係を築けたのではないか?と思ってしまう。子供としても、突然別に生物学上の親がいると言われても困惑するばかりだ。

松宮には実は父親がいた。その父親が死ぬ間際ということで…。いまさら感があるだろう。同じパターンとして不妊治療をしていた夫婦が子供ができなかったと諦めていたが、実は自分たちの子供が別の両親の元でスクスクと育っていた。それを知ったところで養子として受け入れたいと考えるだろうか。

中学生にまで成長した見知らぬ子供。作中では必死にその子供を探し出そうとする描写がある。知りたいとは思うが、一緒に生活したいとは思わないかもしれない。

特殊な事情の親子をメインとした物語だ。



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