カード師 


 2022.2.26      ポーカーにより破産する恐怖 【カード師】

                     
カード師 [ 中村文則 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
衝撃的な作品だ。主人公がポーカーで勝負する描写はまさに緊迫感にあふれている。テキサスホールデムで勝負する。負けたら破産の中での緊迫感あふれる駆け引き。冷酷な資産家・佐藤の顧問占い師になったことから僕の歯車が狂い始める。裏社会のなんでもありな世界では、常識が通用しない。力のある者に狙われると逃げ切ることはできない。僕が序盤にディーラーとして負けていくプレイヤーたちを見ていく描写もまたすさまじい。

本作を読むとポーカーの魅力のとりことなってしまう。テキサスホールデムの仕組み上、資金のある者が有利で、全財産を賭けての勝負となることもある。占い師絡みでのマインドコントロールの流れもすさまじいのだが、ポーカーの描写が強烈に印象に残っている。

■ストーリー
占いを信じていない占い師であり、違法カジノのディーラーでもある僕に舞い込んだ、ある組織からの指令。それは冷酷な資産家の顧問占い師となることだった──。

■感想
序盤からディーラーとして働く僕が描かれている。客のひとりと組んでいかさまをし、客を破産させようとする。盤上のすべてのカードを把握し、誰にどのカードが行くかまで制御すれば、適度に相手を勝たせ、最後には相手を破産させることができる。

テキサスホールデム方式では、掛け金をどんどん上げていく方式なので、中途半端に賭けた状態では後に引けなくなる。このルールにより、このまま勝負を降りた場合は、数千万を捨てることになる。となると、自信のあるカードでは全財産を賭けても良いと思えてくるのだろう。

ある程度掛け金が上がった状態で降りることは常人の神経では難しい。本作でも僕がいかさまにはめ込まれ、ギリギリの状態で勝負を降りる描写がある。相手が勝利するのは数パーセントの確率のフォーカードを出すしかない。相手がフォーカードを完成させるのはあり得ないが…。

ひりつくような駆け引きがすさまじい。冷酷な佐藤に雇われ、抜け出せなくなった僕。逃亡資金のはずが、その資金をポーカーで失っていく。裏社会で生き残るために、どこまでも慎重にならざるお得ない状況が描かれている。

後半では佐藤の特殊な遺書が描かれていたりと、物語のトーンが変わっていく。結局のところ、裏社会の中ではボスは次々と変わっていく。椅子取りゲームなので、追い落とされることもある。僕に命令を下した者も次々と変わっていく。佐藤の目の前に呼び出され、食事をするよう依頼される。

それはつまり僕が殺されるという合図だった。なぜ、という理由もなく理不尽に殺されていく。そんな世界にいることは精神を蝕んでいくのだろう。ポーカーでのひりつく展開と、裏社会の理不尽さが強烈に印象に残っている。

ポーカーに挑戦してみたくなる作品だ。



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