純喫茶「一服堂」の四季 


 2018.5.18      ラストの叙述トリックは衝撃的だ 【純喫茶「一服堂」の四季】

                     
純喫茶「一服堂」の四季/東川篤哉
評価:3
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■ヒトコト感想
東川篤哉お得意のライトなミステリー。今回は純喫茶の「一服堂」の店主である安楽倚子が探偵として活躍する。安楽椅子探偵ということで名前が安楽倚子(あんらくよりこ)と、このあたりをつかみのギャグとしている。極度に人見知りな倚子が一服堂にやってくる新規の客に戸惑いながらも、冴えた推理を披露する。

狂言回し役としてはミステリー作家や刑事など、ある程度定番的なキャラクターが登場してくる。ミステリーのトリック自体は特別なものではない。ただ、人がキリストのように十字架に磔になるトリックや、密室でのバラバラ殺人事件など、映像化した方がよりインパクトのある事件が多数登場してくる。「謎解きはディナーのあとで」と同じようにヒットを狙ったようだが、はたして…。

■ストーリー
鎌倉にひっそりと佇む喫茶店「一服堂」の美人店主・ヨリ子は極度の人見知り。だが未解決事件の話を聞けば、態度は豹変、客へ推理が甘いと毒舌のつるべ打ち。そして並外れた思考力で、密室内の「十字架」磔(はりつけ)死体など四つの殺人の謎に迫る。愛すべきキャラクター、笑い、衝撃トリック満載の傑作短編集!

■感想
純喫茶一服堂の店主である安楽倚子は極度の人見知りだ。ただ、客が事件の話をしていると、言葉づかいは荒くなり態度も悪くなる。それは、客の事件に対する推理があまりに正解からかけ離れているかららしい。そして、倚子は自分の考えを披露する。

基本はこのパターンなのだが、倚子は余計な考えを排除するために、細かく質問をしてくる。ただ、そのあとは現場にも行かず、容疑者へ事情聴取することなく事件のトリックを見破ってしまう。まさに安楽椅子探偵と同様の活躍をする物語だ。

十字架に磔になった死体の事件は衝撃的だ。誰が何の目的で死体を磔にしたのか。宗教的な儀式なのか、それとも激しい恨みゆえか…。キャラクター紹介的な作品の色が強いので、まずは倚子の鮮やかな推理が楽しめるだろう。

その先にあるのは、シリアス感はほとんどないが、事件だけは強烈なミステリーだ。作者のライトなミステリーは、雰囲気はライトだが事件自体は強烈すぎるインパクトがある。事件の特異性が、推理を難しくする効果があるのだろう。

ラストの短編は、叙述トリック的な要素もある。それまでの流れと同様に、一服堂に皆が集まり、倚子が推理するだけの物語かと思いきや…。事件は密室でのバラバラ殺人事件。どう考えても人が出入りできない。どのようにして密室は破られたのか…。

まさかのオチだ。そして、時間軸的にそんな時代の話となっているとは思わなかった。ある意味ずるい。そして、キャラクターたちの年齢描写についても最後に登場させて、驚かせている。まぁ、事件のトリックよりも、キャラクターの年齢描写に驚いた。

シリーズ化は難しいのだろう。



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