謎解きはディナーのあとで  


 2013.6.3      定石を覆すパターンのキャラ 【謎解きはディナーのあとで】

                      評価:3
■ヒトコト感想
お嬢様と執事。この組み合わせであれば、わがままなお嬢様に右往左往させられる執事、というパターンが簡単に思い浮かぶ。本作ではお嬢様がわがままというのはパターンどおりだが、特殊なのは、執事がお嬢様に対して、たまに辛辣な言葉を吐くというところだ。丁寧な言葉だが、めちゃくちゃ相手をこき下ろす言葉。お嬢様はそれに気づきながらも、執事の圧倒的な推理力に納得させられてしまう。

基本は、お嬢様が持ってきた情報を執事が聞き、事件を推理するという流れだ。現場も見ずに伝聞だけで謎を解明するパターンはよくある。お嬢様と執事の関係でありながら、ちょっとお嬢様が下に位置しており、執事が謎めいているというのが、面白さのポイントかもしれない。

■ストーリー

ミステリ界に新たなヒーロー誕生! 主人公は、国立署の新米警部である宝生麗子ですが、彼女と事件の話をするうちに真犯人を特定するのは、なんと日本初!?の安楽椅子探偵、執事の影山です。彼は、いくつもの企業を擁する世界的に有名な「宝生グループ」、宝生家のお嬢様麗子のお抱え運転手です。本当は、プロの探偵か野球選手になりたかったという影山は、謎を解明しない麗子に時に容赦ない暴言を吐きながら、事件の核心に迫っていきます。

■感想
大企業の令嬢でありながら刑事である麗子。その運転手である影山。お嬢様と執事という関係でありながら、プロの探偵か野球選手になりたかった影山に事件の推理を頼むことになる。麗子が多少間抜けキャラというのもあるが、よくあるお嬢様よりも、若干世間慣れしているというか、そこまで強烈なお嬢様ではない。

そのため、仮の姿である刑事としても、それなりに成り立っている。物語としては、お嬢様が世間とのギャップに驚く部分はまったくない。お嬢様キャラの必要性は、執事との関係を作るためだけにある。

麗子が勤務する警察組織には、上司として同じような大企業の御曹司がいる。ただ、そこは麗子の存在を隠しているので、気づかれていない。麗子は令嬢としての力を使うことはほとんどなく、ごく普通の新米刑事として事件に対応する。事件の不可解さはそれほどでもない。

謎を麗子が家に持ち帰り、執事の影山が解決するというパターンだ。影山が丁寧な口調で麗子に暴言を吐く。この流れが本作の売りのひとつだろう。お嬢様の下僕状態であるはずの執事が、逆にお嬢様をこき下ろす。お嬢様が悔しがりながらも受け入れる姿が、妙に面白く思えてくるから不思議だ。

謎は多少こじつけ感が強い。謎の面白さで言えば、作者の鵜飼探偵シリーズの方が面白いかもしれない。ユーモアについても、特別本作がすぐれているとは思えない。ただ、このキャラクターがあるだけに強い。冷静沈着で口の悪い執事。ちょっと間抜けな令嬢。かなり間抜けでただのピエロ役の上司。

ハードボイルド風な探偵小説とは真逆の作品だ。このライトさが多くの人に受け入れられるのだろう。この手の作品にありがちな、執事とお嬢様の恋物語なんてのには到底発展しそうにない。最後までこのパターンを貫き通すのだろう。

シリーズとして、今までの定石を覆すパターンが世間に受けたのだろう。




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