自由思考 


 2020.2.1      作者の素がわかる良いエッセイ集 【自由思考】

                     
自由思考 [ 中村 文則 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
中村文則の初エッセイ集。デビュー初期のエッセイから現在のエッセイまで、多種多様なエッセイが収録されている。エッセイを読むと、その人の人となりがよくわかる。作者はその作風と同じようにかなり陰鬱な青春時代を過ごしてきたようだ。エッセイ中にも、学生時代に周りとの関係を作り上げるのに苦労しただとか、バイトしながらの執筆生活の苦労がこれでもかと描かれている。

それ以外には、書下ろしエッセイとして安倍政権に対する不満が描かれている。政治的には明確なポリシーがあるのだろう。憲法第9条をどうするだとか、選挙に行くことへの思いなど、強烈なものを感じずにはいられない。このあたり、政治的な思いの強さは小説作品を読んだだけでは伝わってこない部分だ。

■ストーリー
ユーモア溢れる日常のものからシリアスなもの、物語の誕生秘話から文学論、政治思想まで。生きにくいこの時代を生きる、そのための無数の言葉たち――。ベストセラー作家・17年の「思考回路」がこの1冊に! 待望の「初」エッセイ集、ついに刊行。

■感想
中村文則の小説は、結構暗く陰鬱な雰囲気が特徴だ。本作ではそんなイメージを損なうことのない、陰鬱な学生時代をすごしていたであろうことが想像できるエッセイもある。小説家としてデビューする前には極貧生活を続けており、一食200円と決めて生活していたらしい。

極貧生活となると心まですさんでくるようで、些細なことに怒るエッセイもある。その他には、芥川賞の候補になり落選したことや、受賞したエッセイなども描かれている。小説家としては早くに成功した部類だが、それでも下済み生活の辛さがエッセイとしてにじみでていた。

本作向けに書下ろしのエッセイがある。これが極度に政治色の強いものとなっている。作家ではあるが、ここまで自分の政治色をエッセイとして表現しているのも珍しい。連載ではなく書下ろしというところに、作為的な何かを感じてしまう。

連載中のエッセイであれば、多方面からクレームがくるのかもしれない。安部政権は長く権力を握りすぎたため、官僚が勝手に忖度し始めるようになる。国民の方を向くのではなく、政治家の方を向いて仕事をし始めると日本の国にとってはよいことはひとつもないらしい。

ベストセラー作家なので、作品の映画化もされるらしい。映画化をされ舞台挨拶なんかにも参加することの苦悩や、自分の頬っぺたが膨らんでいることの悩みなど、ささいな日常を描いた面白エッセイもある。強烈なインパクトがあるのは、間違いなく政治について言及した部分だが、作者の人となりは日常のエッセイの方が感じることができる。

マニアックな作品を書く作家だけに、随所にそのマニアックさや陰鬱な雰囲気がある。明るく楽しく学生時代を過ごしました、というタイプではないことは感じることはできた。

作品からは感じ取れない作者の素がわかる良いエッセイ集だ。



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