地獄の楽しみ方 17歳の特別教室 


 2020.4.29      言葉の行き違いや人生について語る 【地獄の楽しみ方 17歳の特別教室】

                     
地獄の楽しみ方 17歳の特別教室 [ 京極 夏彦 ]
評価:2
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■ヒトコト感想
京極夏彦が講談社内部で10代向けに講演した内容が文章におこされている。作家ということで、言葉や文章について語っている。なるほどと思ったのは、アナログとデジタルの違いだ。アナログ時計とデジタル時計を例にだして、アナログは針が連続して動くが、デジタルな1から2に一気に変わってしまう。だからデジタルは捨てる情報が多いらしい。

その流れで言葉や文章は無意識に捨てている部分が多々あるらしい。文章は相手の思い込みで誤解を生むことが多い。だから保険の約款などはクドイほどしつこく読みにくい文章で書いているらしい。簡易的に書かれた文章では、その書かれていない部分を勝手に解釈されるおそれがあるからだ。基本は講演会の内容だが、新しい発見のある作品だ。

■ストーリー
「今の十代の皆さんは、私が十代だった頃に比べても、はるかに優秀です。しかし、大人になった皆さんを待ち受けているのは地獄のような現実です。それはいつの時代も変わりありません。地獄を楽しむためのヒントを、もう地獄に堕ちている先輩が、少しだけお教えします」(京極夏彦)「あなたの世界」は、言葉ひとつで変わってしまいます。

SNS炎上、対人トラブル――すべては「言葉」の行き違い。語彙を増やして使いこなすわざを身につければ、楽しい人生を送ることができます。

■感想
10代向けに京極夏彦が講演する。作者の作品のファンは30代以上のようなイメージがあるが、新しいファンも獲得しているのだろう。言葉や文字について語るのはいかにも小説家らしい。言葉は相手に誤解されやすい。文章についても、相手の思い込みによっては激しく誤解される可能性がある。

ら抜き言葉や、言葉の誤用についても語っているが、どちらかというと正しい言葉を使った方がよいというスタンスだ。作中で紹介されている誤用で爆笑が元は多くの人が笑った場合にだけ使えるというのは初めて知った。

その他には10代に対してアドバイスめいたこともしている。SNS炎上やマウンティング合戦によるトラブルなど、相手と同じ土俵にのらず避けるべきと語る。ひとつの喧嘩はそれまで築き上げたモノを全て壊す可能性がある。

マウンティングしたからといって、その瞬間はすっきりするがそれだけだ。ただ、無駄な争いを避けるにはそれなりに知力が必要とのこと。言葉の行き違いをなくすことはむずかしい。ただ、コミュニケーションとしては行き違いがあるかも、と考えながら話すだけでずいぶんと変わるだろう。

ラストでは10代からの質問に作者が答えている。最も興味深いのは、小説を書くことについて語っている部分だ。京極夏彦自身は小説を書くことは辛くて仕方がないらしい。それを避けてとおるための知力や体力もなくなってきたらしい。

家族を養い、事務所を維持するためにはしょうがなく小説を書いているようだ。出版社にはまったく恩がないとまで言い切ってしまっている。ただ、読者たちには感謝しているということで、読者のために小説を書いているらしい。

京極夏彦がどのような考えをもっているのかが垣間見える作品だ。



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