一人称単数 


 2021.8.24      作者の実体験のような物語 【一人称単数】

                     
一人称単数 [ 村上春樹 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
村上春樹の短編集。すべては創作ということを理解はしているが、どうしても作者のプライベートエッセイのような雰囲気を感じてしまう。特に昔付き合った背の小さな女性の兄との交流の物語は強烈だ。その後、その女の子とは別れたが、何年後かに兄と再会する。そして、ちょっとお茶をして、元カノが実は自殺したと知る。独特な語り口で淡々と語られると、すべてが作者の過去の出来事のように思えてくる。

「品川猿の告白」は、さすがに旅館に行くと話しをするサルがでてきて背中を流してくれたり、一緒に酒を飲んだりする物語なので、まるっきり創作だとわかる。ただ、それまでの作品を読んでいると作者の実体験が多少なりとも含まれているような気がしてならない。

■ストーリー
「一人称単数」とは世界のひとかけらを切り取る「単眼」のことだ。しかしその切り口が増えていけばいくほど、「単眼」はきりなく絡み合った「複眼」となる。そしてそこでは、私はもう私でなくなり、僕はもう僕でなくなっていく。そして、そう、あなたはもうあなたでなくなっていく。そこで何が起こり、何が起こらなかったのか? 「一人称単数」の世界にようこそ。

■感想
短編の入りは音楽の話からスタートする。過去に作者のエッセイをいくつか読んでいるので、作者の音楽好きやスワローズ好きというのは良く知っていた。そこから、物語がスタートするので、明らかに作者のような主人公が活動すると、作者の実体験を物語としたのか?と思わずにはいられない。

モテるタイプではないが、まれに自分と波長のあう女の子とお付き合いすることがあるらしい。学生時代の背の小さな彼女とは順調に交際を続けていたが、そこで彼女の兄と偶然二人っきりなる場面が発生する。現実にもありそうなシチュエーションなのが良い。

その他には、見た目が醜い女性の話がある。これはかなり特定の人物をイメージして描いた、いわば告発的な物語かと思った。見た目が醜いことをその女性自身が理解し立ち居ふるまう。そして、物語の主人公と馬が合う。さらには、主人公は結婚しているが、醜い女性としょっちゅう会うことに対して奥さんから何の文句も言われない。

この作品の主人公は作者ではないのか?と思わずにはいられない。作中では醜い女性のことを辛辣に批判するのではなく、どちらかというと好意的に描いているのが印象的だ。

「品川猿の告白」は、さすがに現実の出来事とは思わない。雰囲気の良い旅館に泊まると、そこでは当たり前にサルが中居のようなことをしている。そして、品川猿と名乗るサルと酒盛りをしたり、背中を流してもらったりもする。

次の日目を覚ますとサルは消えている。自分ひとりであれば瓶ビール1本のところ、サルがいるからと2本頼んで一緒に酒盛りする場面は最高だ。柿の種をつまみにサルとビールを飲むなんてのはすばらしすぎる。サルに背中を流してもらうのだけは、想像したら少し抵抗があるかもしれない。

一瞬、作者のエッセイのように思えてしまった。



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