漂砂の塔 


 2021.7.25      北方領土の離島で巻き起こる事件 【漂砂の塔】

                     
漂砂の塔 [ 大沢在昌 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
舞台は北方領土の離島。ロシア人と中国人と日本人が仕事をする特殊な場所。そこで日本人殺害事件が起こる。事件を捜査するために送り込まれたのはロシア語と中国語に堪能な警視庁の石上だった。死体の目はえぐりとられていた。それが何か理由があるのか。ロシアの軍事機密や北方領土の離島のため、日本人とロシア人の複雑な関係などが描かれており、石上は離島を支配する企業オロテックの施設長に協力を依頼し事件を調査する。

ロシアのマフィアが島にいるのだが、実質的には施設長がすべてを支配している。石上が独自の調査で日本とロシアの過去の伝説を調査し、施設長やマフィアを翻弄する。ロシアのFSBである女医などすべての登場人物が自分の利益のために相手を騙そうとしている。

■ストーリー
二〇二二年、雪と氷に閉ざされた北方領土の離島。日中露合弁のレアアース生産会社「オロテック」で働く日本人技術者が、死体となって発見された。凍てつく海岸に横たわる体。何者かに抉りとられていた両目。捜査権がなく、武器も持てない土地に送り込まれたのは、ロシア系クォーターで中国語とロシア語が堪能な警視庁の石上だった。元KGBの施設長、美貌の女医、国境警備隊の若き将校、ナイトクラブのボス…敵か、味方か?信じられるのは、いったい誰だ?日中露三ヵ国の思惑が交錯し、人間たちの欲望が渦を巻く!

■感想
北方領土の離島という特殊な場所では、各国の微妙な関係から表向きは協力関係にあっても、裏ではお互いが何をたくらんでいるのかわからない。レアアース生産会社のオロテックの施設長がすべてを支配する土地で石上はどのように殺人事件の捜査をするのか。

最初は形だけの捜査のはずが、目をえぐられた奇妙な死体を見てより深く調査を続ける石上。石上がハードボイルド全開のキャラではなく、臆病で逃げ腰だったのだがいつの間にか、誰よりも事件解決に食いつく存在となっている。

石上は東京で潜入捜査官としてロシア人から恨みを買っている。調査が佳境にきたところで、そのロシア人が離島に入り込み石上を狙っているとわかる。ここから物語は急激に動いていく。島を支配する施設長は石上の調査を快く思っていない。島のマフィアは離島に来たロシア人を排除しようとする。

敵が共通ということで石上と共闘したりもする。そこに石上に情報提供する女医の存在があり、事態は複雑化していく。女医は権力者と関係をもち石上にも嘘を伝えている可能性がある。誰が真実を話しているのかがわからないのが強烈だ。

ラストは激しい銃撃戦となる。島の支配者である施設長はロシアの国益を一番に考え行動していた。女医は自分の立場を守りつつ、その時強い者に寄り添うように巧みに情報操作をしている。島のマフィアはよそ者を排除し既得権益を守ろうとする。

それら複雑な人間関係はすべて石上が中心となっている。古くは日本人皆殺し事件がこの離島で起こったことから始まる物語。序盤は何が島で起きているのかわからない状態であったが、ラストでは全てが明らかとなり、おさまるところにおさまったという感じだ。

真実を知ることがすべて正しいわけではない。



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