ひこばえ 上 


 2020.12.21      高齢の父親と向かい合う男 【ひこばえ 上】

                     
ひこばえ 上 [ 重松清 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
父親と息子の関係を描いた本作。主役の洋一郎は幼いころに父親がでていった。家族を捨てた形の父親なので、姉や母親は父親に恨みをもっている。時が経ち、洋一郎は孫ができる年齢となる。上巻では、洋一郎の家族の関係や、孫ができることでの家族の動きが描かれている。さらには、自分が所長をつとめる高齢者施設でのありかたなどが語られている。

そんな洋一郎のもとに、出て行った父親が死んだという連絡が入る。何年も音信不通だった実の父親からの連絡。母親が再婚し育ての父親がいる中で、実の父親をどのような扱いとするのか。天涯孤独な父親の遺骨を引き取る先がないので洋一郎に連絡が入る。父親の過去の話を聞くことで、出て行った後の父親がどのような生活をしていたかが判明してくる。。

■ストーリー
世間が万博に沸き返る1970年、洋一郎が小学校2年生の時に家を出て行った父親の記憶は淡い。郊外の小さな街で一人暮らしを続けたすえに亡くなった父親は、生前に1冊だけの「自分史」をのこそうとしていた。なぜ?誰に向けて?洋一郎は、父親の人生に向き合うことを決意したのだが…。

■感想
洋一郎の父親が出て行った。幼い洋一郎の記憶にあるのはやさしい良い父親ではあったが、姉や母親からすると金にルーズな父親という思いがあった。洋一郎は幸せな結婚をし子供にも恵まれていた。幸せな家族としての生活が描かれており、孫が生まれるという一大イベントもある。

自分が孫をもつ世代となった時に、父親が亡くなったという連絡が入る。洋一郎の境遇は複雑だ。母親が再婚し、お互いが連れ子がいる状態で新しい家族となる。義理の父親は早い段階で亡くなったのだが、ここへきて出て行った実の父親の死を知ることになる。

ひこばえというタイトルは、大木を切ったあとの切り株に新しい苗を植え、そこから木が育つことをいうらしい。複雑な家庭環境である洋一郎は、出て行った父親の死を知りその遺骨をどこの墓にいれるかに悩む。

この洋一郎の立場というのは、自分よりも上の世代ではあるが、同じように遠く離れて暮らす両親の墓をどうするのかという問題はいずれ自分も直面することだろう。特に離婚した父親というのは、どのような扱いにするのか難しい。

上巻では、洋一郎の家族の状況と施設に新しく入居してきた後藤さんという初老の男性のことが対比として描かれている。施設に親を入れることをどのように考えるのか。高額な費用でいたれりつくせりだが、人によっては姥捨て山と考える可能性もある。

悪気のない後藤さんは息子がIT企業の社長なので早くから施設に入居している。なんだか非常にやるせない展開だ。子供と一緒に暮らすのが必ずしも幸せであるとは限らない。かといって、施設で終わりを迎えることが幸せなのか。離婚した父親がひとり孤独死したことも絡めて描かれている。

下巻ではそのあたりがより濃密に描かれることだろう。



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