2019.6.10 敬語嫌いな作者のエッセイ集 【ガラスの天井】
ガラスの天井 / 辻 仁成 / 集英社
評価:2.5
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■ヒトコト感想
辻仁成のエッセイ集。幼少期の体験や多感な時期の経験、そしてロックバンドを組んでいたころや、小説家としてデビューした時期の話まで。作者のルーツを探るようなエッセイ集となっている。時代がかなり古いので、30代の作者が未来に向けても語っている。20年以上前の作品なだけに、時代を感じる描写は多々ある。
冒頭から自殺した小学校5年生の遺書ともとれる作文を引き合いに出し、死について語っている。多感な時期に読んだ本の話や、敬語の話など、作者の独自の考え方がエッセイとしてまとめられている。ことあるごとに読みたくなる「人間失格」を5冊もっているというのは衝撃的かもしれない。エッセイ的には、独自の色がでている。
■ストーリー
雪の降りしきる北の街の子供部屋での体験、高校時代に遭遇したケルアックの『路上』。東君平さんが僕にそっと囁いた言葉。そして東京の雑踏を見つめる僕―孤独を友としてきた心の軌跡を、自画像を描くようにつづる。
■感想
辻仁成のエッセイ集。「そこに僕はいた」は幼いころの思い出が詰まった青春の瑞々しいエッセイの雰囲気があった。本作は、ある程度成長した作者が死について考えるなど、その他のエッセイ集と比べると多少落ち着いた雰囲気となっている。
小学5年生が飛び降り自殺をする前に書いた作文は、その結果があるだけに、どこかいわくありげに感じてしまう。その他にも、ロックバンドとしてデビューした話やその後、小説家となるまでも印象的なエピソードを交えながら描かれている。
作者はやはり小説家ということで、本についてはそれなりに思い入れがあるようだ。「人間失格」を何度も読む。そのたびに買うので家には5冊ほどあるらしい。親戚に絵本作家がいるということや、自分がいかに甘えていたのかなども語られている。
高校時代にはケルアックの「路上」に没頭したり、そのほかには、ある日突然小説を書きたいと思い、そこから2週間で書き上げてみごとに賞を獲得してしまうなど、それなりにインパクトのある流れがあることは間違いない。
作者個人が疑問に感じる部分についても語られている。敬語については、作者は常々敬語は不要と思っているようだ。そのため、アメリカ人が少し親しくなると敬語を使わずファーストネームで気軽に話ができることにあこがれているようだ。
日本では目上の人を敬うというのがあるため、常に敬語は付きまとうことになる。それをどのようにして打破するのか。相手に理解があることが必須の状態ではあるのだが、日本でいきなり目上の人にタメ口というのはかなり勇気がいることだ。
作者独特の考えが示されたエッセイ集だ。
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