大名倒産 上 


 2020.5.19      大名は社長と同じだ 【大名倒産 上】

                     
大名倒産 上 [ 浅田 次郎 ]
評価:3
浅田次郎おすすめランキング
■ヒトコト感想
突如として3万石の大名とされた小四郎。慣れないまでも大名としての仕事を必死でこなしてきたのだが…。江戸へ納めるはずの金がおさめられていない。調べてみれば藩の経済状態はすでに崩壊していた。現代にも通じるような問題だ。跡を継いだは良いが、会社は火の車で倒産寸前。江戸時代の藩であればおとり潰しもありえる状態。父親であるご隠居は、すべてを知りながら小四郎にめんどうごとを押し付けていた。

何かと金が必要ではあるが、小四郎は必死にやりくりしようとする。同じような藩の経済状態で、そこから自己破産的な方法で危機を逃れた経験者のアドバイスを受け入れながら窮状を脱しようとする。親世代の負債を押し付けられた苦しみがすさまじく伝わってきた。

■ストーリー
丹生山松平家三万石を襲いだばかりの若き殿様は江戸城で脂汗を垂らしていた。――御尊家には金がない。老中からの宣告に慌てて調べてみれば藩の経済事情は火の車であった。奇跡でも起こらぬ限り返しようもない額の借金に押し潰される寸前の弱小大名家。父である御隠居はこの苦境を見越して、庶子の四男である小四郎に家督をとらせたのだ。計画的に「大名倒産」を成した暁に、腹を切らせる役目のために……。

父祖から受け継いだお家を潰すまい、美しき里である領地の民を路頭に迷わせまいと、江戸とお国を股にかけての小四郎の奮戦が始まる!だが、大名行列の費用に幕府からの普請費、さらに兄が嫁取りしたいと言い出し、金は出てゆくばかりで……しかも、お家にとり憑く貧乏神まで現れて!?親世代の逃げ切りと負債にあえぐ子供世代……と現代にも身につまされるお金をめぐる新旧交代の物語。

■感想
妾の子であり足軽として育ってきた小四郎が、なんの因果か突如大名となる。藩の苦しい状況を救えるのは小四郎だけ、というヒーロー的な役割よりも、ただ兄たちが病気がちやバカだからという理由らしい。気づけば藩は倒産寸前。借金の利子すら返すことができない。

このままではおとり潰しが待ったなしの状況ではあるが、小四郎は奮闘する。貧乏神まで登場し、藩の窮状はどうにもならない状態となっている。さらにはバカな兄が結婚するということで、そこでも多大な費用がかかることになる。

参勤交代や何らかの付き合いで大名は多大な金が必要だ。歳入としては年貢しかない。足りない資金は商人に借りるしかない。ただ商人から借りた金は年々積み重なり莫大な金額となっている。これを返す当てがない。そればかりか利子すらも返すことができない。

となると、大名はどんな手を使うのか。今でいうところの自己破産に近いことを商人たちに告げる。商人たちはただそれを受け入れるしかない。返さないわけではないが無利子で200年かけて返すと言われたら、それは破産と同じだろう。

小四郎の奮闘は周りを巻き込む力がある。兄の結婚相手の父親は参勤交代の助けをする。同じような経験をしてきた勘定役は、小四郎にアドバイスをする。いつの間にか貧乏神すらもちょっと小四郎に協力しようとしたりと、なんだかかなり特殊な状況となっている。

大名というのは企業の社長かもしれない。返す宛てのない巨大な借金を背負った場合、社長はどう立ち回るべきなのか。江戸時代の大名は厳しい経済状況でありながら、殿様だからと商人に圧力をかけて借金を棒引きにするのは難しいのだろう。

下巻では小四郎が動くことで、どのような着地点となるかがポイントだ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp