悪意の手記 


 2019.4.19      心に闇を抱えた男の人生 【悪意の手記】

                     
悪意の手記 (新潮文庫) [ 中村文則 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
ひとりの男の手記が描かれている。手記形式で、その男が何をやってきたのかがわかってくる。死にいたる病に侵され自暴自棄になっていた時、あるひとりの男を殺してしまう。そこから人との交流があり、次第に生きる気力を取り戻していく。究極の絶望に陥った状態から、急に生きる希望を見出すと、人はどうなっていくのか。人を殺したことを心の中に押しとどめたまま、普通の生活をすることはできるのだろうか。

たとえ恋人のようなものができたとしても、後ろめたさを拭い去ることはできない。罪を犯した人間に再生は許されるのか。相変わらず、中村文則の作品は作者の心が病んでいるかのように感じてしかたがない。強烈なインパクトはないが、心の闇を感じる作品だ。

■ストーリー
至に至る病に冒されたものの、奇跡的に一命を取り留めた男。生きる意味を見出せず全ての生を憎悪し、その悪意に飲み込まれ、ついに親友を殺害してしまう。だが人殺しでありながらもそれを苦悩しない人間の屑として生きることを決意する―。人はなぜ人を殺してはいけないのか。罪を犯した人間に再生は許されるのか。若き芥川賞・大江健三郎賞受賞作家が究極のテーマに向き合った問題作。

■感想
自分の未来にはすぐ死が迫っている。あらがいようのない病に侵され、死を待つだけの人間が、突如としてその死から逃れられるとどうなるのか。手記の形で男の独白が始まる。死の淵から生還した男は、知り合いのKを殺してしまう。

世間的にはKの自殺ということになっているが、真相は男だけが知る。人を殺した思いを胸に、その後普通に生活することはできるのか。本作の主人公は心に闇を抱えており、他者からすると普通ではない異常者のように見えている。

軽薄で女をナンパし食い物にする男と知り合いとなる。無感情に、コンビを組んだ男と共に女を食い物にする。初体験も、その男がナンパした女と一緒にいた女で済ませている。

死から生還したは良いが、知り合いを殺したうしろめたさから、人生に覇気がなく流されるまま人生をただ続けていく。恋人のようなものもできるが、それはただ断らなかっただけ。もしかしたら、世の中には本作の男と同じように、流されるまま日々を生活している人は多いのかもしれない。

男は自分が殺人者であることを隠し通せず、遂にはすべてを告白してしまう。そのきっかけとなる事件がなんとも強烈だ。バイト先の女店主は娘がある少年に殺された。その少年が出所する時期をに、少年を殺そうと画策する。男はその女店主の手伝いをするのだが…。

本作に登場してくるのは、常に心に闇を抱えている者たちばかりだ。これから先の人生に夢も希望もない。この異常な雰囲気を非日常として楽しめるならば、本作を読むべきだろう。

当たり前に生活している人には、考えられない特殊な人生だ。



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