絶唱 湊かなえ


 2016.1.19      秘密を抱えたまま南の島へ 【絶唱】

                     
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■ヒトコト感想

山女日記」が、登山を通して女性の心理を描いていたのに比べ、本作では南の島を訪れる女性の心理を描いた連作短編集となっている。秘密を抱えたまま、逃避の意味で南の島へやってきた女性たち。短編の主役の視点で見えてくるモノも変化してくる。ある短編ではとんでもなくダメな母親というイメージがあるが、別の短編でその母親目線での物語となると、内情がわかってくる。

婚約者との関係を解消しようと逃げ出した南の島で、どのような気持ちで日々を過ごすのか。幸せな人生を送っているとは思えない女性たちが、何かを見つけるために南の島トンガにやってくる。そして、何かしらの「希望」が生まれてくる。少しだけ不幸を背負い、悩む女性の心理を描くのが上手いのが作者の特徴だろう。

■ストーリー

悲しみしかないと、思っていた。でも。死は悲しむべきものじゃない――南の島の、その人は言った。心を取り戻すために、約束を果たすために、逃げ出すために。忘れられないあの日のために。別れを受け止めるために――。「死」に打ちのめされ、自分を見失いかけていた。そんな彼女たちが秘密を抱えたまま辿りついた場所は、太平洋に浮かぶ島。そこで生まれたそれぞれの「希望」のかたちとは?

■感想
最後の「絶唱」という短編を読むと、主人公が小説家としてスタートすることが描かれている。もしかしたら作者自身のことを描いた作品なのか?と思ってしまう。完全な実話ではないにしろ、作者の実体験が多分に含まれているのだろう。悲しみを抱えてのトンガ旅行。そこで出会う様々な境遇の人々。

すべてが純粋に南の島をバカンスとして訪れるわけではない。わけありな人たちが、お互いの理由を深く追求することなく干渉しないような関係を続けつつ、どこかで心を通じ合わせる。女性の微妙な心理というのは、よくわからないがジワジワと伝わってきた。

「約束」は、主人公の女性よりも婚約者の行動や考え方が自分と似ていることに驚いてしまった。婚約者と婚約破棄すると言い出せずにトンガにきた女。そこにやってくる婚約者。プライドが高く、褒められることが好きで、大したことをしていないのに、他人をほめることを嫌がる男。

性格は優しく頼りがいがあり、将来性もある。ただ、どこか歪な思いをぬぐいされない。女が婚約破棄をしたくなる気持ちもよくわかるし、男の言い分もわかる。どちらが悪いというのはない。ただ、結論として別れがあるというのは、なんだか少し悲しい雰囲気となる。

中には、若くして未婚の母となった女が、子供を連れてトンガにやってきたという短編もある。阪神大震災での出来事がどの短編にも描かれている。そのことが本作に登場する短編を実話のように感じさせているのだろう。避難所での苦しい生活や、小さな子供を連れてシングルマザーとして働くことの辛さなど、強烈なリアルさがある。

全てが真実とは思わないが、震災のとらえ方や、被害を受けた人、無事だったが被害を受けた人を助けなかった人など、なにが正解なのかわからない。自分的には、被害の大小を相対的に考えるのではなく、絶対的な考え方で自分の動きを考えるべきだと思った。

本作が実話をベースにしているのか、ものすごく気になるところだ。



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