山女日記 湊かなえ


 2016.1.12      女性の複雑な心理が良くわかる 【山女日記】

                     
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■ヒトコト感想

山に登ることで自分を見直す女性たちの物語。結婚観や家族や恋人との関係に悩む女性が、登山を通して自問自答し、また周りの登山者に影響され吹っ切れる物語。それぞれ登る山が短編のタイトルとなっている。特別、登山に詳しくなくとも、女性たちの思いには共感できる人は多いだろう。特に女性読者であれば、何かしら感じることはあるかもしれない。

一緒に登山するパートナーとの関係や、周りの登山者の様子など、女性の複雑な心境が痛いほど伝わってくる。連作短編集なので、別の短編の主役たちと同じ山に登る別主人公目線の短編もある。離婚を切り出された専業主婦や、親に寄生して生活していると思われる女性の登山など、それぞれの思いは複雑で、思わず熱中して読んでしまう。

■ストーリー

このまま結婚していいのだろうかーーその答えを出すため、「妙高山」で初めての登山をする百貨店勤めの律子。一緒に登る同僚の由美は仲人である部長と不倫中だ。由美の言動が何もかも気に入らない律子は、つい彼女に厳しく当たってしまう。

医者の妻である姉から「利尻山」に誘われた希美。翻訳家の仕事がうまくいかず、親の脛をかじる希美は、雨の登山中、ずっと姉から見下されているという思いが拭えない。/「トンガリロ」トレッキングツアーに参加した帽子デザイナーの柚月。前にきたときは、吉田くんとの自由旅行だった。彼と結婚するつもりだったのに、どうして、今、私は一人なんだろうか……。

■感想
「妙高山」は、百貨店勤務の同僚同士の登山ということで、女性が女性を見る際のなんともいえないピリピリとした感覚が伝わってきた。方や社内で不倫をし、方や婚約者の親と同居を迫られている。自由奔放な女性の言動にムカムカしつつも、自分はどうなのかと自壊する。

ウジウジと悩み、頭の中では怒りで爆発しそうでありながら、平静を装い山を登り続ける。女性同士の関係というのは、男同士とはまた違った難しさがある。表面をとり繕い、さも仲がよさそうに見せるのか、それとも本音を言い合い絆を深めるのか。

「金時山」は、自分も登ったことがある山なのでなじみぶかい。作中では、富士山に登るような本格的な登山を想定していた女性が、恋人に連れてこられてがっかりした、という流れがある。ただ、金時山はハイキング程度と言えども、山頂へ上りきった際の感動はそれなりにある。

ミーハーとしては、富士山にこだわる。それを知りつつ、富士山に関連するという隠されたオチが金時山にある。恋人への細かな不満が、ちょっとしたことで爆発する場合もある。女性の心理というのは、男は理解できないが、本作を読むと理解できた気になってしまう。

「利尻山」では医者の妻でセレブな姉に見下されつつ登山する妹が主役の短編と、実は医者の夫から離婚を切り出された姉目線の二つの短編がある。どちらも複雑な心理が働いている。姉はすべてにおいて成功したと思いこむ妹。妹の先行きを心配しつつも、自由な妹をうらやましく思う姉。

女性としては、夫に依存した生活から放り出されることの恐怖や、結婚せず自立できず、年金生活の父親に頼るしかない状態の苦悩など、リアルな現実があるような気がした。女性だからというわけではないが、女性ならではの感情がものすごく伝わってきた。

本作を女性が読めば、かなりはまることは間違いないだろう。



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