陽気なギャングは三つ数えろ 伊坂幸太郎


 2016.6.5      マスコミに誘導される恐ろしさ 【陽気なギャングは三つ数えろ】

                     
陽気なギャングは三つ数えろ [ 伊坂幸太郎 ]
伊坂幸太郎おすすめランキング
■ヒトコト感想
陽気なギャングシリーズはかなり昔に読んだ。久しぶりのシリーズとして最初は登場人物たちの能力が思い出せなかったが、読んでいくうちに違和感なく楽しめた。特に印象的なのは、間違いなく響野だ。無駄な話をひたすらペラペラしゃべり続ける。冒頭の銀行強盗の場面はまさに響野の独壇場と言えるだろう。響野の言葉は嘘が大半だが、それをさも本当にように話されると納得してしまう説得力がある。

今回はハイエナ週刊誌記者の火尻がポイントとなる。火尻の悪人具合がすさまじいため、その他のキャラが相対的に良いキャラに思えてしまう。週刊誌にあることないこと書かれた瞬間に、その人の人生は終わってしまう。実は火尻はかなり恐ろしい現代の問題を利用している。

■ストーリー

陽気なギャング一味の天才スリ久遠は、消えたアイドル宝島沙耶を追う火尻を、暴漢から救う。だが彼は、事件被害者のプライバシーをもネタにするハイエナ記者だった。正体に気づかれたギャングたちの身辺で、当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器成瀬ら面々は断崖に追いつめられた! 必死に火尻の急所を探る四人組に、やがて絶体絶命のカウントダウンが!

■感想
いつものメンバーが銀行強盗をする。これはいわば久しぶりに登場したキャラクターたちを思い出してもらうためのエピソードなのだろう。そこから火尻という週刊誌記者が登場し、成瀬たちが銀行強盗団だということを嗅ぎ付けられてしまう。

そして、記事を書かれたくなければ、と脅されることになる。まずメインの悪役である火尻が強烈だ。事件の被害者のプライベートを暴き、いつのまにか被害者が悪いという流れにしてしまう。世間の目は恐ろしい。そして、それを誘導することができるマスコミも恐ろしい。

火尻の脅しにのるような形でカジノバーで盗みを働こうとするメンバーたち。相変わらずそれぞれのキャラの個性によりうまく計画をすすめている。作者が描く他作品のキャラと同様に、常に冷静で飄々としちょっと的外れなことを言うキャラたち。

シリアスな場面で、上げ足をとるような言葉遊びをする。特に響野は余計なことばかりペラペラと話すので、作中ではウザがられている。久遠はどれだけ危険な場面に直面しようとも冷静にスリを働く。そして、雪子はとんでもないドライビングテクニックを披露する。

それぞれのキャラで見せ場はある。そして、最後は悪である火尻に悲惨な結末がまっている。勧善懲悪でありシリアスな流れをどこか明るく楽しいものにしている。小粋な会話と多数の伏線によりラストの展開へと繋がる流れ。

作者のファンならば間違いなく楽しめるだろう。ただ、過去シリーズを読んでいないとそれぞれの人間関係やその人物が持つ才能がわからないので、あまり楽しめないだろう。シリーズの他作品を読んでいることが前提の作品となっている。

映画化されたシリーズなだけに、本作も映画化される可能性はある。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp