夜また夜の深い夜 桐野夏生


 2015.2.21      自分のルーツがわからない不安 【夜また夜の深い夜】

                     
桐野夏生おすすめランキング


■ヒトコト感想

イタリアのナポリに住む母と娘。母親は整形を繰り返し、何かから逃げ回っている。娘のマイコは国籍もなく、まともな教育を受けていないため、常識がない。マイコが母親と喧嘩し、飛び込んだのが「MANGA CAFE」。日本的に言うとマンガ喫茶なのだが、そこでマイコは日本のマンガに触れる。物語はマイコの危険な冒険的生活を描いている。

新しいものをふんだんに取り入れ、必要以上にそれをアピールしているように感じられた。マイコが初めて触れるマンガは、大人気マンガばかり。iphoneを男から盗み取ったことからGPS機能で位置を探られ追われることになる。物語的にはラストは尻切れトンボだ。怪しげな宗教団体や国籍問題など、作者にしては珍しく時事問題的なものを扱っている。

■ストーリー

どんな罪を犯したのか。本当の名前は何なのか。整形を繰り返し隠れ暮らす母の秘密を知りたい。顔を変え続ける母とアジアやヨーロッパの都市を転々とし、四年前にイタリア・ナポリのスラムに住み着いた。国籍もIDもなく、父親の名前も、自分のルーツも、わからない。

母と口論し外に飛び出すと、「MANGA CAFE」と書かれたチラシを手にする男に呼び止められた。絶対に本当の名前を教えてはいけないという母のOKITEを初めて破って、私は「マイコ」と答えた。

■感想
マイコは自分のルーツがわからないまま、母親に連れられ世界各地を放浪する。母親が気づけば頻繁に整形を繰り返し、まったく別人の顔となって帰ってくる。逃亡生活の代償として、マイコはまともな教育を受けることができず、常識がない。この常識がないマイコというのが非常に良い。

他人の心にずけずけと入り込んだかと思うと、あっさりと相手を裏切ったりもする。マンガ喫茶の店長に対しても、早朝に家を訪ね追い出されたら腹いせにマンガを盗む。親切に泊めてくれたカメラマンからはiphoneとノートPCを盗む。マイコの非常識さはある種の魅力がある。

マイコの安住の地は、スラムの地下で生活するエりサとアナとの暮らしだ。それぞれ国から逃げ出し、危険な仕事で生計を立てている。搾取する者とされる者がいるとしたら、エリサたちは明らかに搾取される側のはずが、搾取する側に立とうとする。

エリサにアナ。なんだか流行の「アナと雪の女王」のエルサとアナをイメージしてしまった。今までの作者の作品は、それほど流行ものを取り入れない独自の世界観だったはずが、本作ではかなり俗世間に媚びを売るような物語に思えて仕方がない。

物語はマイコの母親が新興宗教に関わっていると分かってから、急転直下となる。マイコの母親が整形を繰り返したのには理由があった。母親とそっくりな顔のマイコが世間の注目を浴びるようになるのか…。自分のルーツがはっきりしてからのマイコは力強い。

エリサやアナと比べると、地に足がついているというか、はっきりとした目的があるだけ強いのだろう。ただ、ラストは非常にあっさりとした終わり方となっている。駆け足的に母親の秘密が明かされるのだが、その後どうなったのかはわからない。

自分のルーツがわからないのは、強烈に辛いことだ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp