甦るロシア帝国 佐藤優


 2016.4.24      ソビエト崩壊を目の当たりにした作者 【甦るロシア帝国】

                     
甦るロシア帝国 [ 佐藤優 ]
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■ヒトコト感想
作者のロシア時代、特にモスクワ大学で講師として学生たちに教えていた時代の出来事が描かれている。作者の記憶力のすばらしさゆえか、当時のことを事細かに語っている。いろいろな立場の教え子がいる状態で、ソビエト崩壊を目の当たりにした状況がつぶさに描かれている。外交官としてソ連で活動しながら、学生たちを教える先生役ともなる。

ただの講師ではなく、学生たちに多大なる影響を与えるすばらしい講師となっている。ハードな仕事をしながら教師として大学生たちに教えることができる作者の能力の高さに驚かされるばかりだ。講義の内容も普通に日本語ですら難しい内容をロシア語で生徒たちに教えていたのだろう。ロシアでの様々な知識人たちとの交流も描かれており、作者の能力の高さばかりが印象に残っている。

■ストーリー

外交官としてソ連崩壊を目の当たりにした筆者は、新生ロシアのモスクワ大学で神学を講義し、若者たちに空恐ろしさを感じる―「ロシアはいずれ甦り、怪物のような帝国になる」。プーチン大統領の出現でその恐れは現実化した!今後のロシア帝国主義政策を理解するために必須の、ロシア知識人たちの実像を描き出す。

■感想
作者が過去、外交官としてソ連で活躍していたことはよく知っている。ソ連の知識人たちと交流をし、さらにはエリート学生たちにモスクワ大学の講師として講義をしていたことも知っていた。ただ、具体的にどのような内容を講義していたかが、本作で描かれている。

ごく普通の教師ではない。教える対象はソ連のエリート学生たちばかりだ。講義の内容としてかなり高度だ。宗教観や民族間など、普通に日本語で講義したとしてもかなり難しいことだが、それをロシア語で実施するというのはかなり高い言語力と能力が必要だ。

ソ連の当時の状況がよくわかる。知識層はそれなりに国のために動こうとするが、国自体の状況からハイパーインフレが起こり、日々の生活にも苦労することになる。ここで、外交官である作者が貧乏なエリート学生たちに割の良い仕事を紹介する。

外交官としての能力だけでなく、その後、エリート学生たちがソ連の国の中枢を担うようになることを見越して、日本人として学生たちに援助している。このあたり、並みの考え方ではない。いくら自分に余裕があるからといって、そこま資本論で他者のために必死になれるだろうか。

いつものごとく、非常にレベルの高い内容となっている。民族や宗教や共産主義について多少の知識がないと、ほとんどちんぷんかんぷんだろう。特に資本論やマルクスなど、自分にとっては未知の部分ではあるが、作者の中では常識として会話に登場してくる。

作者の幅広い知識と、難解な話題でも噛み砕いて説明する能力はすばらしい。何より、これらの話がすべてロシア語でソ連の知識人たちと会話されていたことは驚きだ。日本の外交官はこうも能力が高いのかと驚かされるばかりだ。

作者は普通の人とは明らかに違う、高い能力を持っているのだと改めて認識した。



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