闇先案内人 上 大沢在昌


 2016.8.29      秘密管理が徹底した逃がし屋 【闇先案内人 上】

                     
闇先案内人(上) [ 大沢在昌 ]
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■ヒトコト感想
ヤクザに追われるようなやばい人間を逃がす「逃がし屋」葛原が主人公の本作。葛原の仕事は秘密管理を徹底しており、仲間との連絡すら細心の注意を払う。そんな葛原が警察庁の幹部から仕事を依頼される。仕事の内容は、同業者が逃がそうとしている人物を見つけ出すことだ。まず、逃がし屋という稼業の説明代わりのエピソードが描かれる。

暴力的な何かをするわけではなく、綿密に計画されたとおりの行動で対象を逃がす。追っ手がヤクザということで、見つかれば葛原たちも危険にさらされるのだが…。同業者の成滝が逃がそうとする人物を見つけ出す仕事を、警察庁幹部に脅されながら実行する葛原。成滝の存在が非常に不気味だ。正体をまったく明かさず、完璧な仕事をする成滝。かなり興味深いキャラクターだ。

■ストーリー

やばい「客」を追手の手が届かない闇の先に逃がす―それが「逃がし屋」葛原の仕事だ。「極秘入国した隣国の最重要人物を捕えて逃がせ」。依頼はよりによって警察庁幹部からだった。断れば殺人犯として追われる。大阪に向かった葛原を待ち受けるのは、暗殺を狙う隣国の工作員たち。壮絶なチェイスが始まった。

■感想
逃がし屋としての仕事は、自分たちの素性を隠すのも重要な仕事のはずだが…。葛原は警察庁の幹部に見つかり、仲間を逮捕すると脅され、仕方なく依頼を受けることになる。逃がし屋として警察に尻尾をつかまれるようでは問題あるのでは?と思えてしまう。

同じく逃がし屋の成滝が正体不明であり、二重三重のオトリを用意し葛原たちをかく乱することで、成滝のすさまじさが表現されている。そんな成滝の行動を先読みし、追い続ける葛原との激しい攻防は、とてつもなく魅力的だ。

成滝はまったく正体を見せず、出てくるのはオトリばかり。成滝が逃がす人物の秘密や、成滝の行動に感銘を受けオトリ役を引き受ける元刑事の存在など、成滝のカリスマ性ばかりがアピールされている。北の工作員までもが追いかける人物。

そして、成滝の仕掛けを忠実に実行する者たち。上巻では成滝は登場してこない。それだけに、成滝がすばらしいということを他の人物からこれでもかとアピールされると、否が応でも成滝と葛原の対決には興味を惹かれてしまう。

葛原のチームは、表面上は警察に協力するフリをしているが、何かしら仕掛けを考えている。この駆け引きが秀逸だ。協力して成滝と対象者を探す中で、誰が裏切りどこに秘密を漏えいする穴があるのか。上巻に登場してくる人物たちは、みな多かれ少なかれ所属する組織に高い忠誠心をもっている。

それぞれが自分が正しいと思うことをやる。その結果として、対立が生まれたとしても、それを甘んじて受け入れるしかない。警察庁の幹部さえも、自分はいつ首を切られるかわからないと語るなど、がけっぷち感はすさまじい。

下巻にて成滝の正体が明らかになるのは非常に興味深い。



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