やぶへび 


 2017.11.8      偽装結婚相手の世話をやいたばかりに… 【やぶへび】

                     
やぶへび (講談社文庫) [ 大沢在昌 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
元刑事の甲賀が金のために偽装結婚をした相手のトラブルに巻き込まれる。偽装結婚の相手は中国女で、警察に保護され甲賀に連絡がくる。この時、女は記憶喪失だったためにたちが悪い。女を狙う何者かの存在や、偽装結婚のからくりまで。甲賀は偽装結婚の相手をあっさりと見捨てることができたはずだがそれをしない。

親身になり、ほんの少しだけ金のにおいを感じたために行動する。女が上海のマフィアのボスの娘とわかり、そこから女を手に入れようとする複数の組織との駆け引きが面白い。最後の最後まで女は、どこか嘘をついているような雰囲気があるのも良い。騙し騙されの世界の中で、後先考えずに行動するのが甲賀の良いところだ。

■ストーリー
「カネもなければ、オンナもいない」元刑事の甲賀は40歳の寂しい年の瀬を迎えていた。そこへ「奥さんを保護した」と警察からの連絡。この「妻」は甲賀が“偽装結婚”した中国人女性で、記憶を失っていた。彼女が何者か二人で調べていくと事態はとんでもない方向に。

■感想
元刑事である甲賀の元に、警察から連絡が入る。偽装結婚の相手であり顔も知らない中国女が保護されたということで呼び出される。物語を複雑にするのは、中国女が記憶喪失状態だということだ。自分が偽装結婚した理由や、日本にいる理由もわからない。

なぜか武術の腕前がすさまじく。チンピラに囲まれたとしてもあっさりと返り討ちにしてしまう。女をめぐって複数の組織が女を手に入れようと動き回る。ここでも女が狙われる理由がわからないため、ミステリアスな展開となっている。

女の正体がしだいに明らかとなる。元上海の大物マフィアの娘であり、その大物マフィアは日本の古びたホテルで殺されていた。男を殺したのは娘なのではないか?という疑問が常に付きまとう。そして、一緒に行動し続けている甲賀と女の関係は次第に親密なものとなっていく。

このあたりは大沢在昌のハードボイルド作品には定番の流れかもしれない。偽装の夫婦がいつの間にか相手のことを思いやり、好きになってしまう。そして、中国女の正体を知ってもなお助けようとする甲賀は男らしい。

ラストは女の兄が上海からやってきて、すべての謎がとける。元刑事の甲賀が主人公で、現役刑事に伊賀がいる。なんだかとってつけたような名前であり、ストーリー的にも偽装結婚相手が記憶喪失という条件は面白いが、それ以外は平凡かもしれない。

甲賀が特別な能力があるわけではないのだが、傍らにいる女が武術の達人なので、ピンチをきり抜けてしまう。なぜ記憶喪失になったのかなどの細かいことはどうでも良いのだろう。序盤での複数の謎が錯綜するあたりは面白い。

藪をつつく(偽装結婚相手を助けようとする)ことをしなければ、平穏な日常を甲賀は過ごせたのだろう。



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