2017.8.12      すぐそこに迫った未来 【私たちは生きているのか】
      
                                 
            
            私たちは生きているのか? Are We Under the Biofeedback? [ 森 博嗣 ]
            評価:3
 
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            ■ヒトコト感想
            ウォーカロンシリーズ第5作目。ハギリが富の谷という閉ざされた場所へと調査に向かう。警察も立ち入らず、誰も戻ってこない場所。脱走したウォーカロンが秘かに潜む場所。ハギリたちがたどりついた場所は巨大な地下都市で、そこではウォーカロンたちが脳だけになり、仮想世界でひたすらプログラミングをし続けていた。衝撃的な流れだ。
            
            仮想世界の中で、プログラミングし仮想世界を改善しつつ、高性能のコンピュータウィルスを製造する。闇の組織ではあるが、仮想世界ですべてが完結する場合は、現実世界が不要となるということだろう。仮想世界の中では現実と同じように生活ができ、不自由はない。キャラの性格上、ハギリは仮想の世界を理想だと考えそうだ。
            ■ストーリー
            富の谷。「行ったが最後、誰も戻ってこない」と言われ、警察も立ち入らない閉ざされた場所。そこにフランスの博覧会から脱走したウォーカロンたちが潜んでいるという情報を得たハギリは、ウグイ、アネバネと共にアフリカ南端にあるその地を訪問した。富の谷にある巨大な岩を穿って造られた地下都市で、ハギリらは新しい生のあり方を体験する。
	    ■感想
            生きるということにどういった意味があるのか。このシリーズでは人工細胞により死なない体が作り上げられ、子供が生まれない体の人間ばかりとなる未来が描かれている。ウォーカロンと人間の区別がほとんどない中で、生きることの定義をどこに置くのか。仮想世界の中で生きることと、現実世界で生きることに違いはあるのか。
            
            脳だけとなり、仮想世界の中で自由な存在となることが生きていると言えるのか。近未来の世界でありえそうなことだけに恐ろしくなる。高度に進化した仮想世界では、そこで生活する者にとっては現実世界となんら変わりはないのだろう。
            定期的に栄養が脳に送り込まれ、ひたすらプログラミングを書き続ける生活。仮想世界は現実と変わらない。プログラミングで進化し続ける世界。そこに入り込んだハギリたち。違法な状況であることを通報しようとしたが、仮想世界から抜け出すことができない。
            
            生身の人間が仮想世界に入り込んだ場合、ある種の軟禁状態となるのだろう。外部のネットワークから遮断された仮想世界では、誰かの助けを呼ぶことができないのだが…。ここで前作で登場してきたデボラが大活躍することになる。
            ハギリたちが仮想世界から脱出するまでは圧巻だ。少しのほころびを見つけ出し、人工知能が人間に近い突飛な発想をし、結果としてデボラがハギリたちを救い出す。すべての黒幕をどのようにして見つけ出すのかがもうひとつのポイントだ。ウォーカロンの頭の中に入り込むことができるデボラに隠し事は通用しない。
            
            仮想世界での見た目と現実世界での見た目はまったくリンクしていない。ハギリたちの無機質な言葉の中にも、仮想世界だけで生きることの不自然さが語られている。
            近未来にありえそうな世界だ。
            
            
            
            
            
          
              
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