2016.4.12 作者の実体験が短編に? 【我が家のヒミツ】
我が家のヒミツ [ 奥田英朗 ]
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■ヒトコト感想
様々な家族のちょっとした秘密が描かれている短編集。特にテーマがあるわけでもなく、強烈なオチがあるわけでもない。読みすすめていくと、どのようなオチになるのか?と期待してしまうが、予想外になにもなくすんなりと終わるパターンがある。子供ができない夫婦の問題や、昇進レースに敗れた男の話など、シチュエーションは様々だ。
どれもが先が気になる展開であることは間違いない。この後、どうなるのか?という気持ちをすんなりと流して終わっている。「妻と選挙」だけは、作者の作家としての立場がそのまま描かれているのか?なんていう余計な思いをこめて読んでしまった。どれもサラリと終わるのが作者らしいと言えばらしい。
■ストーリー
どうやら自分たち夫婦には子どもが出来そうにない(『虫歯とピアニスト』)。同期との昇進レースに敗れ、53歳にして気分は隠居である(『正雄の秋』)。16歳になったのを機に、初めて実の父親に会いにいく(『アンナの十二月』)。母が急逝。
憔悴した父のため実家暮らしを再開するが(『手紙に乗せて』)。産休中なのに、隣の謎めいた夫婦が気になって仕方がない(『妊婦と隣人』)。妻が今度は市議会議員選挙に立候補すると言い出して(『妻と選挙』)。どこにでもいる普通の家族の、ささやかで愛おしい物語6編。
■感想
「アンナの十二月」は、実の父親が実は有名人だったと知った16歳の女子高生の葛藤を描いている。父親が有名演出家であり、金持ちとわかると同級生からうらやましがられる。そして、留学費用を実の父親にお願いするまでになるのだが…。
育ての父親と実の父親。子供からすると、突如として夢のような父親が登場してくると、それだけで舞い上がってしまう。が、育ての父親の気持ちを考えることはない。なんだかモラルだとか人の気持ちだとか、結局のところ特にオチがないので、どうなのかわからないが、優しい気持ちになれることは確かだ。
「妊婦と隣人」は、出産を間近にひかえた妊婦が、暇にまかせて隣人の様子をうかがうという物語だ。隣人がまったく生活感を見せず、それでいて夜中にひっそりと外出するとなると、気になるのは当然だろう。それがエスカレートし、隣を監視するようになる。
警察を巻き込み、夫に注意されながらも監視を止めることができない妊婦。オチ的に、なんらかの結論をだしてくれるものと思っていたが、うっすらと匂わせるだけで決定的な結論を描いていない。このパターンが定番なのだろう。
「妻と選挙」は、子供に手のかからなくなった主婦が選挙にでるという物語だ。小説家の夫目線の物語なのだが、秀逸なのは、夫の作家としての実情が語られている場面だ。N木賞を受賞し、有名作家となったはいいが段々と売れ行きが怪しくなる。
編集者とのやりとりや、編集長が描き下ろしという言葉に喜ぶなど、まさに今の作者の現状を表しているようで興味深い。「ナオミとカナコ」という名作は、もしかしたら本作のようなやりとりの結果生まれてきた作品なのかもと思ってしまった。
オチのない物語であっても読ませる作者の筆力はすばらしい。
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