2015.7.12 文学記念館で起こる事件 【閉ざされた夏】
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■ヒトコト感想
作者は学芸員関連の話が多い。本作でも文学記念館を舞台にした放火事件から始まり、最終的にはミステリアスな殺人事件が起こる。まず、文学記念館での同僚たちの勤務態度が非常にのんびりとしたものとして描かれている。公務員体質というか、民間企業とは違う競争のない社会が描かれている。
そんな状況で新人としてやってきた男が、放火事件の秘密を暴こうとする。記念館などでは、たとえボヤだとしても、火事を出すことはご法度のようだ。ほんのわずかな火で貴重な資料が灰になる可能性がある。そして、殺人事件が発生すると、記念館の評判はがた落ちとなる。放火の目的は?そして、事件の犯人は?謎は深まるばかりだ。
■ストーリー
夭逝した天才作家の文学記念館で、奇妙な放火未遂が相次いだ。和気あいあいとした記念館の雰囲気は一変し、職員たちの言動にもおかしな様子が…。新入り学芸員とミステリ作家の兄妹が、謎を追い始める。そんな折り、同僚の一人が他殺体で発見された!事件を解くカギは、天才作家の過去に!?ユーモラスでいて切なくほろ苦い、傑作青春ミステリ。
■感想
文学記念館での仕事がまず語られる。書士もそうだが、学芸員や記念館の職員というのは、どのような仕事をしているのか謎であった。利益を生むような仕事ではなく、現在存在する資料の保全や、研究など、記念館としての仕事は多岐にわたる。
ただし、同僚たちはのんびりとした仕事ぶりを徹底している。立て続けにボヤが発生し、それに対してひとりの男が冴えた推理を展開する。ボヤの発生原因から、犯人がボヤを起したい理由など、文学記念館だからこそ起こりうることなのかもしれない。
舞台は文学記念館で特集する天才作家の身辺にまで影響する。殺人事件が発生し、被害者は天才作家の身内の日記のコピーを持っていた。世間的には大発見だが、なぜそれを公にせず、ひとり隠し持っていたのか。
そして、殺された理由は日記のコピーに関わることなのか、謎は深まるばかり。ただ、周辺の人間関係や、被害者が妊娠しており、金が必要だったという描写から何かしらの原因らしきものは想定できる。ただ、最後のひと押しがはっきりしないというのが正直なところだ。
ラストでは怒涛の種明かしが待っている。ボヤの原因と、ボヤを発生させ最終的に記念館をどうしたかったのか。そして、殺人事件が発生し、ひとりの人物の思惑により、事件が複雑化している。ひとつひとつの出来事はシンプルなのだが、関係者の利害関係が複雑化しているため、事件がわかりにくくなっている。
種明かしがされ、すべてが明らかになると、妙なすっきり感がある。なにもそこまでする必要があるのか?という思いはあるが、人の価値観の違いにより、どこまで暴走するのかが描かれている。
文学記念館が舞台というのがポイントなのだろう。
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