小さいおうち


 2015.4.15      戦時中での日常 【小さいおうち】

                     


■ヒトコト感想

昭和初期、東京郊外の小さな家で巻き起こる騒動を描いている本作。女中のタキ目線ですべてがすすんでいく。一番衝撃的なのは、戦時中の辛く苦しくひもじいという描写があまりないということだ。戦争中であっても、裕福な家庭はそれなりの生活をする。物がない時代にも関わらず、タキが奉公した家は非常に恵まれた生活をしている。

両親と息子の三人暮らしの家庭に女中がひとりいる。違和感のある状況だが、当時としては普通の光景だったのだろう。戦争だと言っても、意外に普通に生活した人は沢山いたのかもしれない。戦争を喜ぶ人も存在し、戦時中の描写として、この小さいおうちの家庭の中だけは、別世界のように思えてくる。不自由な時代でも、どことなく優雅で気品があるように感じるのはなぜだろうか。

■ストーリー

昭和11年。田舎から出てきた純真な娘・タキは、東京郊外に建つ少しモダンな、赤い三角屋根の小さなお家で、女中として働きはじめた。そこには、若く美しい奥様・時子と旦那様・雅樹、そして、可愛いお坊ちゃまが、穏やかに暮らしていた。 しかしある日、一人の青年・板倉が現れ、奥様の心があやしく傾いていく。

タキは、複雑な思いを胸に、その行方を見つめ続けるがー それから60数年後の現代。晩年のタキが大学ノートに綴った自叙伝には、"小さいおうち"で過ごした日々の記憶が記されていた。 残されたノートを読んだ親類の健史は、秘められ続けてきた思いもよらない真実にたどり着く。

■感想
おばあちゃんの自叙伝を読み、そこから過去の描写が始まる。女中としての生活はイメージしていたよりも人間的だ。意地悪な奥様に虐められるお手伝いさん、なんてステレオタイプなパターンはない。タキの純朴そうな風貌と、ご主人様と奥様の気品があり優しさに満ち溢れた表情というのは幸せオーラにあふれている。

昭和初期の時代にモダンな住宅を建て洋装を好むのは、かなり先進的な家庭だったのだろう。そこでの生活は、戦争中の危うさはあれど、ごく普通の幸せな家庭というイメージだ。時代的な印象としては今と比べると、亭主関白が当たり前の時代という感じだ。

小さいおうちに、ちょっとした波風がたつ。それは旦那様の会社に新入社員として入社した男と奥様があやしい関係となることだ。女中としてタキが目にする二人の不穏な動き。時代を考えると、女の不倫なんてのはもってのほか。

二人っきりでお茶しているのを見られただけで、相当な非難がある。女中としての立場を考え、やんわりと奥様に注意するタキ。幸せな家庭が壊れるのか、それとも…。タキは主人公ではあるが、小さいおうちの家族たちがメインだ。タキ個人のエピソードとしてはほぼない。

戦争中は食う物にも困るというイメージだが、裕福な者たちは酒を飲みトンカツまでも食べたりする。やはり特殊な家庭ということなのだろう。一般的な戦争のイメージとは少しかけ離れている。そうは言ってもおもちゃ会社として、戦争はマイナスにしかならない状況も描かれている。

タキの目から見た小さいおうちの家族。それが自叙伝を読んだタキの甥により、現代へと引き継がれる。どこか、ALWAYS的なイメージがある。特別大きな出来事があるわけではなく、時代の雰囲気を感じ、楽しむような感じかもしれない。

戦時中の雰囲気としては、異色かもしれない。



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