ザ・万字固め 万城目学


 2015.7.8      強烈な東電株主総会レポート 【ザ・万字固め】

                     
万城目学おすすめランキング


■ヒトコト感想

作者のエッセイ集はよくわからない面白さがある。それは、作者の作品に通じる部分かもしれない。日常の出来事や、学生時代の貧乏旅行の話など、作者のプライベートな部分を知るには良い作品だろう。ただ、作者が取り上げたテーマに、どれだけ自分が興味を持つかによって印象は変わってくる。

他エッセイではサッカーをテーマとし、それにがっちりとはまったが、本作ではそこまではまるテーマはなかった。それでも「東京電力株主総会レポート」は強烈なインパクトがある。電力株を買ったがゆえに感じる様々な不満。そして、株主総会での会長の強烈な胆力。メディアを通して見る東京電力の会長とは、また違った印象を持つことは間違いないだろう。

■ストーリー

この面白さ、何者?エッセイをこえた超エッセイ本。『鴨川ホルモー』、『鹿男あをによし』、『プリンセス・トヨトミ』、『偉大なる、しゅららぼん』の万城目学が綴る、「作家の日常」&「奇想天外な世界」。「やけどのあと~2011 東京電力株主総会リポート~」収録。

■感想
作者の作家としてのスタンスがよくわかるエッセイ集だ。締切に遅れることに必要以上に恐怖感を覚えるため、常に締め切りはひとつしか抱えない。その根本的原因は、過去に読んだマンガにあったという。少年時代に体験した様々な出来事が、今の作者を形作るカギとなる。

どこかとぼけたエッセイでありながら、主張したいことはしっかりと主張する。学生時代の貧乏旅行でヨーロッパの島を渡り歩いた話などは、ちょっとした旅行エッセイ風にすら思えてくる。

東京電力の株主総会のレポートは強烈だ。その前段として、配当率が高いからと安定した電力株に1千万ほど投資する作者。結果として原発事故により株価はあっという間にごみ屑のような値段となってしまう。手痛い勉強料を払った作者だが、そこからの行動力がすごい。

株主総会で文句を言ってやろうと考える。総会でのやりとりはかなり興味深い。すでに過半数の委任状を手に入れている経営者側は、形だけの議決をとる。株主から文句がでるのは当然だが、それらをコントロールする会長の存在感の強烈さを作者は描いている。

鹿男あおによし」が描かれる前に、奈良で取材をしたエッセイや、作者の本が台湾で翻訳されることの困惑やサイン会での大歓迎具合など、作者のファンならば知りたい情報が詰まっているエッセイだ。くだらない内容もあるが、このくだらなさが作者の持ち味だろう。

自分は年齢的にも作者に近いことから、いろいろと共感できる部分も多い。他人を攻撃するようなエッセイではない。不満を声高に叫ぶようなエッセイでもない。他者を貶さず面白いエッセイを書くというのは、かなり難しいが、作者はやってのけている。

作者のファンならば読むべき作品だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp