たんぽぽ団地 重松清


 2016.6.8      とり壊される団地に何を思う 【たんぽぽ団地】

                     
たんぽぽ団地 [ 重松清 ]
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■ヒトコト感想
ファンタジーあふれる作品。取り壊しが決まった団地を舞台にした作品であるため、ノスタルジックな気分を引き起こすことが目的なのだろう。時空たつまきが巻き起こると、現在の人が過去のある時点へ飛ばされる。そこで自分の幼い姿や、知り合いの過去を知る。団地が取り壊されるということは、そこでの様々な思い出もなくなるということ。

昔子役でドラマの主演を演じたワタルや、今、子役としていち時期ほど人気がなくなった女の子など、いろいろな要素が詰まっている。団地に深い思い入れがある人にとっては、たまらない作品だろう。団地と共に成長した人。団地に引っ越してそこで定年を迎え、老後を過ごす者。なんだか妙な悲しさのあるファンタジーだ。

■ストーリー

昭和の子どもたちの人生は、やり直せる。新たなるメッセージが溢れる最新長編。元子役の映画監督・小松亘氏は週刊誌のインタビューで、かつて主人公として出演したドラマのロケ地だった団地の取り壊しと、団地に最後の一花を咲かせるため「たんぽぽプロジェクト」が立ち上がったことを知る。その代表者は初恋の相手、成瀬由美子だった……。少年ドラマ、ガリ版、片思い―― あの頃を信じる思いが、奇跡を起こす。

■感想
団地が取り壊される。となると、そこに住む老人世代はどうなるのか。最初は団地に住む祖父の扱いに戸惑う父と娘の物語かと思った。気難しい祖父と団地が壊される前のつかの間の同居。それは小学校高学年の女の子にとっては楽しいものではないだろう。

そこから団地が取り壊される経緯や、そこで思い出を語る人たちとの出会い。そして、過去にドラマの舞台となったいきさつなどが語られる。過去をふり返るようで悲しくなる。決して前向きにすすんでいこうというような流れではない。

優秀な子供たちばかり集まる小学校での巧妙なイジメ。作者はこの手のイジメの話を描かせると、とてつもないリアルさをだしてくる。相手を思いやるふりをしながら、実は相手をジワジワと追い詰めている。親や教師たちからは決してイジメとみられないような巧妙さ。

それに気づくのは、いじめられた子の家族だけ。なかなか大っぴらにイジメと言えないことが強烈だ。団地の過去とイジメに直截的な繋がりはないのだが、子供たちの社会ならではの複雑さが見えてくる場面でもある。

時空たつまきで過去の自分や親に会う。その場面でどのようなことを想うのか。壊されていく団地を忍ぶために過去へとさかのぼるのは良い。ただ、そこには都合よく過去に行っているようにしか思えない。お涙頂だいものにしようとしているのか、それともノスタルジックな気分を高めたいのか。

世代的に、団地でがっつり生活していたような人には、何かしら感じるものがあるだろう。時空たつまきにより過去へさかのぼったとしても、団地が取り壊される現実は変わらない。

過去の良い時期をふり返り、前向きにすすんでいくという感じだろうか。



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