静かな炎天  


 2017.4.13      葉村もとうとう40になる 【静かな炎天】

                     
静かな炎天 [ 若竹 七海 ]
評価:3
若竹七海おすすめランキング
■ヒトコト感想
葉村晶シリーズの短編集。古本屋での仕事と探偵の仕事を両立させようと奮闘する葉村に、様々な依頼が舞い込んでくる。今までの葉村シリーズほど悪意を感じることはなく、読後感も悪くはない。暑さを感じる7月から12月まで、各月で葉村に困難が待ち受ける。葉村が40肩に悩み苦しむなど、殴り蹴られるような外傷はないが、加齢からくる問題がでてくる。

探偵としてあっさりと依頼が解決できた喜びや、よけいな依頼に対するイラだち。さらには、古本屋の店長の無茶ブリに怒りながらも、しぶしぶ対応するなど、葉村も大人になったのだと思わせる記述が多数ある。相変わらず読者をムカムカさせるようなキャラクターなど、葉村シリーズのポイントは抑えてある。

■ストーリー
ひき逃げで息子に重傷を負わせた男の素行調査。疎遠になっている従妹の消息。依頼が順調に解決する真夏の日。晶はある疑問を抱く(「静かな炎天」)。イブのイベントの目玉である初版サイン本を入手するため、翻弄される晶の過酷な一日(「聖夜プラス1」)。タフで不運な女探偵・葉村晶の魅力満載の短編集。

■感想
印象的なのは表題作でもある「静かな炎天」だ。ひき逃げ男がその後どうなったのかを探る素行調査や、従弟の消息を探る依頼を、葉村はサラリと完了してしまうのだが…。古本屋と探偵という二足のわらじをはく葉村ではあるが、探偵としての依頼がすんなりいくのはめずらしい。

そして、その依頼とは別に、裏に隠された真実を発見してしまう。葉村はいつのまにか40になっているらしい。作中では40肩に悩まされる葉村の描写が続く。40肩とはそんなに辛いものなのか?というのが強く印象に残っている。

「副島さんは言っている」は、ラストの展開が良い。副島から電話を受け調べ物を依頼される。が、実は副島は病院の立てこもり犯に脅され電話していた…。本作のすべての短編に言えるのだが、葉村の探偵としての大きな変化は、ネットを駆使するということだ。

副島の依頼にしても、パソコンで調べることをメインにして情報を収集している。探偵として足を使うよりも、ネットが主となっている。副島を開放させるために犯人に口から出まかせをいったはずの葉村だが…。ラストの警察のつぶやきがなんだか良い。

「血の凶作」は、作家・角田港大の戸籍を使っていた男が、アパートの火事で死亡したため、その男の正体を探る物語だ。戸籍を使われるということは、角田とどこかで繋がりがあるはずだ、ということで調査する葉村。ニセ角田を探ると、その人の人生をたどるような物語となる。

波乱万丈というか、人の戸籍を使うにはそれなりの理由がある。角田が知らないところで、少しだけ関わりがあり、その結果ニセ角田が誕生する。葉村シリーズらしくない、地道な葉村の活動と、それによる成果がすっきりとした終わりを生んでいる。

葉村シリーズの中ではかなり上位に入る読後感だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp