紳士協定 私のイギリス物語 佐藤優


 2015.3.7      佐藤優のイギリス滞在記 【紳士協定 私のイギリス物語】

                     
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■ヒトコト感想

佐藤優が外務省の研修生としてイギリスに滞在し、ホームステイ先の少年との交流が描かれている。よく物事が整理されているので非常に読みやすい。神学に関する高度な内容については読み飛ばすとして、それ以外のイギリスの日常については、楽しく読むことができた。イギリスでの食生活や、少年グレンとの交流。

特にグレンが自分の階級から抜け出そうと悩む場面は、日本では考えられない部分だ。イギリスが想像以上に階級社会であることに驚き、作者の困惑が伝わってきた。さらには、同僚のキャリア官僚である武藤との交流も興味深い。外務省の研修生がどのように勉強にたずさわり、ロシア語の勉強のためにイギリスへと向かうなど、独特な風習も非常に興味深い。

■ストーリー

1986年、入省二年目の私はイギリスにいた。語学研修に追われる単調な日々の小さな楽しみは、ステイ先で出会った12歳のグレンとの語らいだった。ロンドン書店巡り、フィッシュ&チップス初体験。小さな冒険を重ね、恋の痛みや将来への不安を語りあった私たちは、ある協定を結んだ…。聡明な少年を苛む英国階級社会の孤独と、若き外交官の職業倫理獲得までの過程を描く告解の記。

■感想
外務省の研修生としてイギリスに渡る佐藤優。英語の勉強とイギリス観光の日々の中で、ホームステイ先の少年グレンと交流は興味深い。グレンと連れ立ちロンドンの書店を巡り、様々な食べ物に挑戦する。特徴的なのは、イギリスの食生活に関する部分だ。

作者は食べ物について事細かに描いている。フィッシュ&チップスは「うまい」という書き方がされているが、そこまでおいしそうには思えない。全体的に大雑把な印象で、イギリスの食事はまずいというのもうなずけるような描き方だ。

イギリスでの研修期間で、同僚のキャリア官僚である武藤との交流も描かれている。お互いの知的レベルが高いので、話す内容も高度だ。キャリアと専門職という違いはあれど、ロシア語を学ぶという志は同じだ。作者がチェコで勉強したいからと外務省に入ったのに比べ、武藤は純粋に国のためを思い外務省に入った。

考え方の違いを超えた、友情のようなものを感じずにはいられない。とりたてて、平凡なイギリスでの生活でも、作者の強力な記憶力により詳細に描かれると、自分がイギリスで同じような生活をした気分になってくる。

作者の外務省職員時代を描いたノンフィクションは面白い。特にロシアに関する部分は強烈なインパクトがある。本作も、ロシア語習得の過酷さが描かれている。知的レベルの高い作者であっても、必死に勉強しなければ落ちこぼれてしまうようなハイレベルな授業。

社会人になってまで必死に勉強を続けるほどのモチベーションは、何か大きな志がなければできないことなのだろう。作者がグレンと仲良くなり、グレンの家族とも仲よくなる。作者のイメージは、そこまで他人と深くかかわるような人物ではないと思っていたが…、人の懐に入り込むのがうまいのだろう。

作者のイギリス生活そのものは、非常に面白く読むことができた。



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