2016.11.22 吐き気のする胎児輸出事件 【屍蘭 新宿鮫3】
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■ヒトコト感想
新宿鮫シリーズ第3弾。鮫島の知り合いである売春婦管理者が何者かに殺された。元は、配下の女が妊娠したが本人の許可なしに子供をおろしたことが発端となる。もぐりの産婦人科医と華やかな世界で活躍するエステ経営者。そして、すべての鍵を握る看護婦のふみ枝。物語は犯人側目線でも語られているため、早いうちに事件の全容は明らかとなる。
ただ、それぞれが利害関係にて繋がっているはずが、ふみ枝だけはなぜそこまで危険なことを行うのかの説明がない。過去に複雑な事情があるにせよ、エステ経営者の綾香のために殺人もいとわないその異常さが最後まではっきりしなかった。不可解な事件の結末としては、ちょっと尻すぼみかもしれない。
■ストーリー
エステサロンを経営する美貌の女社長・藤崎綾香。彼女は成功を手にするため、あらゆる手段を取ってきた。殺人、闇ビジネス…。看護婦のふみ枝は、綾香に代わり汚れ役を演じてきた。新宿鮫を恐れた女たちは、鮫島の動きを封じるため罠を仕掛ける。鮫島に汚職、そして殺人の容疑が!美しさに隠された犯罪者の「心の闇」が浮かび上がる。
■感想
エステの経営者綾香は、過去にさまざまな辛い体験をしてきたが、ある出来事を境にして人生はのぼり調子となる。そこに至るまでには、元刑事のビジネスパートナーや看護婦のふみ枝などを利用しのし上がっきた。自分では一切手を汚さず、他者に指示するだけ。
まさに事件の黒幕ではあるが、そのそぶりを見せない流れがある。鮫島がそもそも関わったきっかけは、知り合いが殺されたことにある。死因が不明の謎の死体。自殺か他殺か。作中ではその方法について、早々と犯人目線側での物語で語られている。
事件の全容が明らかとなる前に、鮫島は綾香にはめられ汚職と殺人の容疑がかかる。孤高の存在である鮫島であっても、周りの助けにより変化していく。本作のポイントはいくつかある。監察医でさえも死因を特定できない謎の毒物の存在と、胎児を使ったビジネス。
特にもぐりの産婦人科医に関わる部分は吐き気がするような事件だ。妊娠初期の胎児を、母親の許可なく流産させ取り出す。それを輸出し大儲けする。産婦人科にクレームにくる客に対しては、容赦なく毒物により殺害する。とんでもない事件だ。
物語はすべてを思い通りに動かす綾香と、数珠つなぎに次々と殺人に手を染めていくふみ枝の繋がりを見つける流れとなる。鮫島が動きだし、ふみ枝を追い詰めたとしても…。複雑な流れの中で綾香とふみ枝の関係だけはどうも釈然としない。
そもそもの綾香の出自が、ふみ枝により明るい道へ開けたというのがあるため、登場人物の関係が複雑化している。鮫島が警察を辞めさせられる危機に直面しているのはわかるが、そこの深刻度よりも、事件の結末がどうにも釈然としない。
タイトルにも意味があるのだが、そこまで重要だとは思えない。
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