世界の果て 


 2018.2.8      陰鬱な気分になる短編集 【世界の果て】

                     
世界の果て/中村文則
評価:2.5
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■ヒトコト感想
中村文則の強烈に鬱な気分になる短編集。現実から逃げたい主人公の物語ばかりを読まされていると、作者自身が常にそんな感覚で生活しているとしか思えない。この苦しい現実から逃げる手段として、普通ならば、自分の成長だとか大人になるというのがある。諦めることで事態はかわらない。ちょっとシュールなギャグっぽく感じる作品もあるが、笑えるたぐいではない。

作者の、この暗さが好きな人にはたまらない短編集だろう。妻が突然死んでからまったく動かなくなってしまった男の話などは強烈すぎる。ヘルパーの女性が何気に一番異常かもと思えるほど、ねじまがった世界観がそこにある。普通ではない状態を受け入れることができる人は読んでみると良いだろう。

■ストーリー
部屋に戻ると、見知らぬ犬が死んでいた―。「僕」は大きな犬の死体を自転車のカゴに詰め込み、犬を捨てる場所を求めて夜の街をさまよい歩く(「世界の果て」)。奇妙な状況におかれた、どこか「まともでない」人たち。彼らは自分自身の歪みと、どのように付き合っていくのか。ほの暗いユーモアも交えた、著者初の短篇集。

■感想
「ゴミ屋敷」は強烈だ。妻の死をきっかけとしてまったく動かなくなった男。その男の弟が、兄をなんとかしようと行動する。男が動き出したかと思うとゴミを集め出したり、動かない男を世話するために雇ったヘルパーが、男が動かないことを良いことにさまざまないたずらをしたり。

なんだかちょっとシュールでニヤリと笑えてくる。あっと驚くようなオチがあるわけでもない。ショートショートにあるようなネタと言えばそうかもしれないが、異質な作品であることは間違いない。

「夜のざわめき」は小説家が主人公の作品だ。まるで作者自身の実体験を描いたような…。作者はもしかしたら病んでいるのではないか?と真剣に心配になるような作品だ。まるで作者が眠っているときに見た悪夢をそのまま小説化したような…。

何かを打破したいだとか、現状を変えたいという強い思いがあるのだろうか。鬱な症状へとどんどんと近づいているように思えてしまう。もしかしたら鬱の気がある人には共感できるのかもしれないが…。

表題作である「世界の果て」は最も強烈だ。部屋に突如として存在する見知らぬ犬の死骸。それを始末するために自転車の荷台に乗せて夜の街をさまよう。様々な視点でひとつの出来事が語られ、なんとなく伊坂幸太郎的だという印象はある。

ただ、根本的に内面が暗黒だ。特に不登校の高校生が人を刺すために包丁を買うあたりはすさまじい。そして、最後には人を刺してしまう。この手の作品は最後に思いとどまるというのが定番では?と悪い意味で裏切られた。強烈に陰鬱な気分になる作品だ。

作者の作品のファンであるならば、問題ない?



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