氷菓  


 2013.7.31     日常のささいなミステリーを解き明かす 【氷菓】

                      評価:3
■ヒトコト感想
なりゆきで古典部に入部した折木。ひょんなことから部員がゼロから四人へと増え、部長である千反田の悩みを解き明かす。折木が解き明かす問題は、日常のささいなミステリーだ。高校生が直面するミステリーとしてのリアル感はある。普段はやる気のない折木が、謎に直面すると理路整然と問題を解き明かす。

折木をはじめ、千反田などの古典部の面々が個性豊かで面白い。千反田がなんにでも無邪気に興味を示すのとは対照的に、冷めた目線でミステリーを解明する折木の対比が面白さの要因だろう。日常の問題なので、不可解な密室殺人が起こるわけではない。そのため、多少パンチが弱く感じるかもしれないが、それは、キャラの魅力で十分補っている。

■ストーリー

いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。

■感想
タイトルは古典部の文集からきている。古典部の活動というのがいまいちはっきりしないが、それはどうでもよい。古典部に集まった個性的な面々が、日常で直面するちょっとしたミステリーに挑戦する物語だ。パターンとして、まず千反田が不思議な現象に出会う。そして、他の面々が様々な可能性を口にする。最後にそれらをまとめ折木がミステリーを解き明かす。

普段はやる気のない男である折木が、たまに見せる冴えた推理で周りを驚かせる。折木の、どこか悟りを開いたような語り口と、物事を深く考えないと気が済まない千反田のコンビが抜群だ。

最初の出会いは千反田が教室に閉じ込められたことから始まる。その謎を解き明かすのが折木なのだが、まさに高校生活で起こりそうな謎だ。それを微かなヒントを頼りに解明する折木のすさまじさと、世間知らずなようだが、何事にも興味津々な千反田が融合すると、面白さが倍増する。

学園ミステリーとなると、ありえない殺人事件が定番だが、本作はそうはならない。ミステリーにパンチがないので、リアルといえばリアルだが、物足りないと感じる人もいるかもしれない。ただ、その物足りなさはキャラの個性で充分補えているように思えた。

33年前の謎を解きあかず。丁寧な説明でミステリーを解き明かすまでのロジックが描かれているので混乱することはない。ただ、なんとなく闘争だとか学生運動の匂いを強く感じてしまう。本作の重要な要素のひとつなのかもしれないが、それ以外でも、折木にはどこか反体制の匂いを感じてしまう。

作中で交わされる議論にしても、現代の学生にはない、どこか厭世的な雰囲気を感じてしまった。折木の普段の生活がそう感じさせるのか、それとも33年前のミステリーが、反体制風だからだろうか。作品全体から感じる雰囲気といっても良いだろう。

折木と千反田のキャラクターは秀逸だ。




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