猿の見る夢  


 2017.2.9      身勝手オヤジの行く末が気になる 【猿の見る夢】

                     
評価:4
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■ヒトコト感想
主人公は銀行からファストファッションの企業へと出向した60代のおじさんだ。このおじさん薄井がとてつもなく自分勝手なのが良い。ボケ始めた母親の遺産を元に、2世帯住宅建設をもくろみ、母親の世話をまかせている妹家族とは険悪となる。会社では社長のセクハラ疑惑の処理に奔走しながら、会長の秘書に色目を使う。そして、自分は10年付き合った愛人がいる。

ごく普通のおじさんといえばそうかもしれないが、決断するシーンとなると自分勝手な決断をする。そして、周りの登場人物たちもみな自分勝手である。なんだかめちゃくちゃだが目が離せない。薄井が抱える問題は、誰でもひとつは心当たりがあるのかもしれない。それらを適切に予言する、謎の長峰という占い師が一番強烈だ。

■ストーリー
自分はかなりのクラスに属する人間だ。大手一流銀行の出身、出向先では常務の席も見えてきた。実家には二百坪のお屋敷があり、十年来の愛人もいる。そんな俺の人生の歪(ひず)みは、社長のセクハラ問題と、あの女の出現から始まった――。

■感想
主人公の薄井がとんでもなくダメな人間なのだが、薄井がどうなるのかが気になりページをめくる手を止めることができない。夫婦関係はうまくはいっていないが、なんだかんだと無難に生きている薄井。10年付き合った愛人。会社では役員待遇。長男とは二世帯住宅を作る予定もある。

すべてがうまくいっているようだが、それは一歩間違えれば崩壊の危険性もある。最初のトラブルはネット上に投稿された社内のセクハラ問題だ。それを対応する薄井だが、そこでも自分勝手に会長の秘書に惹かれることになる。

薄井がなんらかの困難に直面しても、場当たり的な行動ですべてをすませている。そして、強烈に自分勝手だ。妹家族に母親の世話を押し付けながら、遺産の話になると法律をもち出してしっかりと半分もらおうとする。

10年付き合った愛人に対しては、突発的にどうでも良いと思ったり、さみしくなると愛人が恋しくなる。まさに自分の欲望のおもむくままに行動している。トラブルに直面すると自己保身に走り、他者を売ることをいとわない。とてつもなくダメな人間だが、結末がどうなるかが気になってしまう。

薄井の妻へ近づく謎の占い師・長峰。この長峰の予言により薄井は振り回されることになる。占い師としてマインドコントロールして人の家に寄生する。長峰の正体は最後まで明らかにならない。が、薄井の境遇を描く上で雰囲気を変える重要なスパイスとなっている。

長峰がらみがメインになることはない。薄井が長峰を危険視するのだが、その力を恐れ始めたりもする。結局のところ薄井の結末は非常に辛くみじめなものとなる。そして、薄井が最後に救いを求めたのは…。

薄井のような身勝手な男は、読者の共感を得ることはないだろうが、強烈な引きの強さがある。



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