作家的覚書 


 2017.10.27      作者の批判はわかりやすい 【作家的覚書】

                     
作家的覚書 [ 高村薫 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
高村薫の時評集。小説作品からは感じることのできない、作者の強烈な左翼思想を感じずにはいられない。政府や総理大臣、そして国の無策を嘆く。いち生活者の視点として、阪神大震災を経験したからこそ、より東日本大震災や原発についての思いも強くなっている。

自分の意見をはっきりと主張し政治や仕組みについてもモノ申している。ただ、政治的な活動をしているわけではない。有名人であれば少しでも政治的発言をすると、ワイドショーやニュースに呼ばれるが、作者はすべて断っているらしい。既得権益や富裕層と戦う作者。原発やTPPなど、政治的にホットな話題をすべて否定的な論調で語っている。ただ、主張は終始一貫している。

■ストーリー
「図書」誌上での好評連載を中心に編む時評集。一生活者の視点から、ものを言い、日々の雑感を綴る。今というこの時代、日本というこの国に生きることへの本能的な危機意識が、生来の観察者を発言者に変える。二〇一四年から一六年まで、日本がルビコンを渡った決定的時期の覚書として、特別な意味をもつ一冊。

■感想
高村薫が日々の雑感をつづる。14年から16年までの日々の出来事で、作者が気になった部分を描いている。基本的には左翼的な思想で、一般市民の側に立った論調となっている。東日本大震災での原発事故を経験しながら、原発再稼働を急ぐ日本に苦言を呈す。

選挙においても思考停止したかのごとく、自民党が当選したことを嘆く。ただ、作者自身もじゃあ民主党が良いのかというと、そういうわけではない。結局のところ今の現状をただ嘆いているだけで、決定的な対案があるわけではない。

総理についても激しく非難している。TPPについても、国民に説明がされていないと言う。非正規雇用や貧困層についても語っている。基本的には弱者の味方という感じではあるが、どうすれば良いという案はない。

作者のプライベートが見えるわけではないので、気難しい人物だというのはわかる。苦み走った表情で政府や富裕層やメディアに牙をむく。自分的に問題だろうとは思うのだが、そこまで深くは考えていないことに鋭く突っ込んでいる。

主張していることは終始一貫している。日本の未来を憂いているのだろうが、日本だけでなく世界のどの国でも似たような問題があるのだろう。既得権益を手放さない者たち。緩やかに衰退していくことをどのようにして受け入れるのか。

本作を読むと、日本に夢も希望もないと思えてくる。今後、日本が劇的に変わることはないだろう。かといって急激に落ち込むこともないような気がする。緩やかに滅びていくのをただ指をくわえて見ているだけしかないのだろうか。

作者の批判はわかりやすい。



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