2017.1.29 妙に説得力のあるヘリクツの数々 【サブマリン】
評価:3.5
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■ヒトコト感想
作者の「チルドレン」はすばらしい作品だった。そのチルドレンの主人公である陣内が帰ってきた。相変わらずのヘリクツの数々とよくわからない行動。そして、なぜか妙に説得力のある言葉。陣内がこんなキャラだったことをすぐに思い出した。ただ、チルドレンが連作短編集だったのに比べ、本作は長編となっている。
陣内のヘンテコなヘリクツの数々は相変わらずだが、今回は家庭裁判所の担当者として少年たちに対してヘリクツをコネ繰り回す。交通事故により両親を失い、友達も失った少年が、故意に交通事故を起こし相手を殺そうとした。そこに至るまでの様々な葛藤や、ネット上の脅迫容疑で保護された少年との交流など、さすがに陣内は大人としての常識なのか、前作ほどのヘンテコなヘリクツを言うことはない。
■ストーリー
『チルドレン』から、12年。家裁調査官・陣内と武藤が出会う、新たな「少年」たちと、罪と罰の物語。
■感想
前作が短編としてコンパクトに陣内のヘリクツと妙な説得力が味わえたのに比べ、本作は長編ということで長々と陣内のヘリクツが続くことになる。前作ほど陣内にはパワーがない。家庭裁判所の担当者として事件を起した少年たちから話を聞くという流れだ。当然ながら少年たちへ陣内のよくわからないヘリクツが続く。
自分が話したヘリクツやヘンテコな理論をさも本当のように話をするため、ネットで検索したら陣内の理論がトップにでるように細工をしたり。そして、そのことを巧みに利用し、その後の展開の伏線としたり。相変わらず伊坂幸太郎の伏線と展開はうまい。
交通事故で両親や友達を亡くした少年が、自らが交通事故の加害者となる。そこに悪意はあったのかなかったのか。意図して相手をひき殺そうとして失敗することと、意図せず偶然に相手をひき殺してしまうのと、どちらが罪が重いのか。
陣内とその部下である武藤が家裁の担当者として関係者を調査していく。前作で登場したキャラが本作でも登場したり、陣内のよくわからないウンチクやジャズに対するちょっと変わった考え方など前作ほど爽快感はないが、陣内と少年たちとの会話は妙に心に響くものがある。
ネット上で脅迫をした容疑で逮捕された少年と陣内、武藤との交流もある。この少年もまたちょっと変わっている。ネット上の情報だけであらゆる情報を手にし、未然に事件を起しそうな人物を武藤に教える。保護観察期間であっても、その行動が収まることはない。
陣内とこの少年との関係もなんだかよくわからないが、なぜ自分に会いにくるのかと少年が訪ねた時に陣内が、「友達としてに決まっている」と答えたのが、なんだか無性に感動してしまった。家裁の担当者としてではなく、友達として少年と接していたということだ。
前作ほどではないが、陣内のキャラは相変わらず強烈な魅力がある。
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